タイトル:Dear Editor
探究領域:意思表現
セントラルアイディア:「編集によって情報の価値は変わる。」
「内容をよくするのって大変だね……」
子どもたちは「何をすべきか」は百も承知です。ただ「どう行うか」に頭を悩ませているのです。そりゃあそうでしょう。小学5年生だし、編集者としての訓練どころか、自分でうまい作文を書こうにも一苦労なのですから。そもそもそんな子どもたちに「編集」なんて任せられないんじゃあ……知識&スキル「注入」主義の大人から見れば不安でならないでしょう。学びとして成立するの?と思うに違いありません。しかし、ここが「探究する学び」の大きな特徴。必要に迫られ、なんとかしたいという強い思いと本物の仕事を通じて学びます。
どうして作文技術が十分ではない子ども達に「編集」が可能なのか。それは読んでみて「いいな!」「面白いな!」と判断する感性は持っているからです。子どもはいやらしい分別のついた大人のように世間の評判とか情報に左右されません。面白いと思ったものを素直に面白いと感じます。その「評価眼」を活かして編集の「質」をあげてゆきます。
ただし、読んで評価できるということと、実際にそのように表現できるというのは別の次元のこと。「表現するワザ」がまだ十分に育っていないので、いざ自分で文を書くとなるとうまくいかないのです。では、どうやって「表現のワザ」を磨いてゆくかというと、他者の文章を編集してみること。それも「名文」ではなく「迷文」。おいおい、これ何言おうとしているの?というような下級生の作文を磨く作業に取り組むのです。
「編集で大事なのはバランス」
このことはきちんと指摘しておきます。なんでも過ぎたるは及ばざるがごとし。直せばよいわけでありません。うまく、すっきりさせるということは著者の「らしさ」を消してしまうことになります。特に低学年の子どもの文をただ意味が通るように直したら、せっかく垣間見えていた「書き手の感性」が消されてしまいます。とはいえ、言いたいことがまったく伝わらないのでは困ってしまいます。いったいどんな話にしたかったのか、それがどうすれば面白く伝わるようになるか、ここに「編集の質」が問われます。これは本当に難しいところで、実際、教師が子どもの作文を添削するときの腕の見せ所でもあるでしょう。ただ直すのなら誰でもできる。一方で、子どもらしくて面白いね!と放りっぱなしにすることも簡単。手を加えつつ、角を矯めて牛を殺すことのないよう、よい部分の釘をどんどん伸ばして、文章全体のレベルをあげてゆく。そんな直し方が求められます。
えっ?そんな高度な「編集」を子どもができるの?って。そりゃあ一朝一夕にはできませんよ。もちろん。でも、子どもたちは、仲間の作文。それも年下の子の作文をよくしてあげたいという強いモチベーションを持っています。さらに、普段のつきあいから、その子のらしさも知っています。
「おまえどんなこと書きたかったの?」
空いた時間を見つけては、直接本人にたずねて、書きたい内容を確かめます。
「そうか、じゃあこんな要素を加えてみたらどうだろう」
「順序を入れかえたらうまく伝わるよ」
「会話が足りないから加えてみよう」
「どんな状況なのかわからないからそこを説明しようよ」
子どもたちはなかなか筋のよい質問をしています。なぜこういう質問ができたかというと、彼らは編集のための「判断基準」を持っているからです。その大前提は、とにかく「その子らしい面白さ」を出すこと。そのために、ストーリーの流れをつくること。説明的になりすぎている場合は、削り、逆に、大事な要素が欠けてストーリーが見えない、あるいは、尻切れとんぼになっている場合には加える。シンプルではあるけれど、本質的なこの「基準」をしっかり頭に入れて、編集の「質」をあげようとしているのです。
インタビューの後、作者の意図に沿って書き直してゆきます。プロジェクターで「原稿」を映し、
(どうしたらもっと面白くなるかな……)
(会話を足すか、情景を補うか、気持ちを表すか……)
(あまりいじりすぎると違う話になっちゃうな……)
(どうしたらあいつの持ち味がでるかな……)
こういった「判断基準」を持って「試行錯誤」します。ただやみくもに「試行錯誤」するわけではないので、知らず知らず「文章の評価眼」が磨かれ、「おれだったらこう書くかな」というメタ認知をばりばりに働かせて「読み、修正する」ようになるので、自分が書くときの腕も知らず知らず高まっているのです。
本物の仕事を通じて、徒弟的に伝授してゆく。「探究する学び」の底力を発揮するテーマ学習と言えましょう。
RI
※TCS2016年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。
探究領域:意思表現
セントラルアイディア:「編集によって情報の価値は変わる。」
[5年生]
編集すべき原稿もほぼ集まり、あとはひたすら原稿の「質」をあげてゆく作業に専念することになります。「質」を上げると言っても、ただ誤字脱字を直し、文法上のミスをなくせばそれで終わりというわけにはいきません。もちろんそれも重要な作業ですが、むしろそれは「校正」と言って、編集作業の終盤、いよいよ出版も間近になってきたときに行う作業です。「内容をよくするのって大変だね……」
子どもたちは「何をすべきか」は百も承知です。ただ「どう行うか」に頭を悩ませているのです。そりゃあそうでしょう。小学5年生だし、編集者としての訓練どころか、自分でうまい作文を書こうにも一苦労なのですから。そもそもそんな子どもたちに「編集」なんて任せられないんじゃあ……知識&スキル「注入」主義の大人から見れば不安でならないでしょう。学びとして成立するの?と思うに違いありません。しかし、ここが「探究する学び」の大きな特徴。必要に迫られ、なんとかしたいという強い思いと本物の仕事を通じて学びます。
どうして作文技術が十分ではない子ども達に「編集」が可能なのか。それは読んでみて「いいな!」「面白いな!」と判断する感性は持っているからです。子どもはいやらしい分別のついた大人のように世間の評判とか情報に左右されません。面白いと思ったものを素直に面白いと感じます。その「評価眼」を活かして編集の「質」をあげてゆきます。
ただし、読んで評価できるということと、実際にそのように表現できるというのは別の次元のこと。「表現するワザ」がまだ十分に育っていないので、いざ自分で文を書くとなるとうまくいかないのです。では、どうやって「表現のワザ」を磨いてゆくかというと、他者の文章を編集してみること。それも「名文」ではなく「迷文」。おいおい、これ何言おうとしているの?というような下級生の作文を磨く作業に取り組むのです。
「編集で大事なのはバランス」
このことはきちんと指摘しておきます。なんでも過ぎたるは及ばざるがごとし。直せばよいわけでありません。うまく、すっきりさせるということは著者の「らしさ」を消してしまうことになります。特に低学年の子どもの文をただ意味が通るように直したら、せっかく垣間見えていた「書き手の感性」が消されてしまいます。とはいえ、言いたいことがまったく伝わらないのでは困ってしまいます。いったいどんな話にしたかったのか、それがどうすれば面白く伝わるようになるか、ここに「編集の質」が問われます。これは本当に難しいところで、実際、教師が子どもの作文を添削するときの腕の見せ所でもあるでしょう。ただ直すのなら誰でもできる。一方で、子どもらしくて面白いね!と放りっぱなしにすることも簡単。手を加えつつ、角を矯めて牛を殺すことのないよう、よい部分の釘をどんどん伸ばして、文章全体のレベルをあげてゆく。そんな直し方が求められます。
えっ?そんな高度な「編集」を子どもができるの?って。そりゃあ一朝一夕にはできませんよ。もちろん。でも、子どもたちは、仲間の作文。それも年下の子の作文をよくしてあげたいという強いモチベーションを持っています。さらに、普段のつきあいから、その子のらしさも知っています。
「おまえどんなこと書きたかったの?」
空いた時間を見つけては、直接本人にたずねて、書きたい内容を確かめます。
「そうか、じゃあこんな要素を加えてみたらどうだろう」
「順序を入れかえたらうまく伝わるよ」
「会話が足りないから加えてみよう」
「どんな状況なのかわからないからそこを説明しようよ」
子どもたちはなかなか筋のよい質問をしています。なぜこういう質問ができたかというと、彼らは編集のための「判断基準」を持っているからです。その大前提は、とにかく「その子らしい面白さ」を出すこと。そのために、ストーリーの流れをつくること。説明的になりすぎている場合は、削り、逆に、大事な要素が欠けてストーリーが見えない、あるいは、尻切れとんぼになっている場合には加える。シンプルではあるけれど、本質的なこの「基準」をしっかり頭に入れて、編集の「質」をあげようとしているのです。
インタビューの後、作者の意図に沿って書き直してゆきます。プロジェクターで「原稿」を映し、
(どうしたらもっと面白くなるかな……)
(会話を足すか、情景を補うか、気持ちを表すか……)
(あまりいじりすぎると違う話になっちゃうな……)
(どうしたらあいつの持ち味がでるかな……)
こういった「判断基準」を持って「試行錯誤」します。ただやみくもに「試行錯誤」するわけではないので、知らず知らず「文章の評価眼」が磨かれ、「おれだったらこう書くかな」というメタ認知をばりばりに働かせて「読み、修正する」ようになるので、自分が書くときの腕も知らず知らず高まっているのです。
本物の仕事を通じて、徒弟的に伝授してゆく。「探究する学び」の底力を発揮するテーマ学習と言えましょう。
RI
※TCS2016年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。