[5年生]
「どうしてみんな壁の方を向いているんですか?」この学びを見学にいらした方が思わずつぶやいたコメントでした。確かに、
ふつうの授業なら、黒板に向かって整然と机が並んでいて、黒板と教師の
方を一斉に向いているか、ディスカッションするためにコの字形または円形
になっているか、あるいはグループ活動で机をくっつけているか……のうち
のどれかでしょう。ところが、それぞれの子どもたちが全員別々の方向を
向き、そのうえ、壁に正対し、時折、壁に書かれていることを眺めながら、
黙々と書き続けています。
それもそのはず、フリップチャートにどんどん書き込んでいったメモが壁
一面に貼られているからです。壁に貼られた紙にびっしり書き込まれたメモ
にはみんなで語り合って生まれ出た言葉が余すところなく記されています。
自分たちの思考の足跡が目に見える形で残っているのですから、当然ながら
いろいろ「ひらめき」、それをつなぎ、まとめて文章にしてゆくことができ
ます。
(あれが大事で……これとつなげて、だから言いたいことは……)
と考えつつ、黙々と文をつくりだしてゆきます。次々に文章ができあがり
ますが、ここからがまさに正念場。「言いたいこと」をすべて載せられる
わけではありません。「伝えたいことを伝わるようにまとめる編集力」の
問われる大詰めの作業にさしかかりました。
「レイアウトって大事なんだ……」
ある子がつぶやきます。ただ書いたものをだらだらと記事にするだけでは、
誰も読む気になりません。レイアウトを工夫して「魅せる」ことこそ「見
せる」ことです。「魅せる」ためには、文章だけで表現しようとせず、写
真やイラストの助けを借りて、訴える力を増す必要が出てきます。ことば
で表現しないで図解することも有効でしょう。文・絵・図・写真をどう組
み合わせ、限られたスペースにどう配置すると伝わるか……
結局、レイアウトを考えて多面的に判断して初めて文が決まる!
ただ文を書いてまとめるだけが編集じゃない!
ということを作業を進めてゆくうちに深く、深く実感し、思わず発してしま
ったのが先のつぶやきだったのです。
「写真はこっちがいいな」
「ここにイラストがあった方がいいでしょ」
「この書き方じゃあくどいわりに意味が伝わんない」
言葉はより短く、端的にインパクトある表現で!
考えの流れはわかりやすく図解!
イラストを補助的に用いて読者をくすぐる!
やったことは写真で見せる!
ということを頭において、ひたすら言葉を磨く作業に没頭する子どもたち
でありました。
「わあ、なんかかっこいいなあ!」
文と写真と図とイラストを考えてレイアウトしたページの「試作品」がで
きあがってみると、いよいよ小冊子らしくなってきていい感じです。
しかし、次の瞬間……
「このイラストもっと小さくした方がいいかも」
「なんか言いたいことが伝わらないくどい文だね」
「文章もう少し削って図解に変えた方がいいかも」
「写真と文のバランスが悪いなあ」
どんどん改善ポイントが見えてきます。これがプロトタイプすることの意義
です。子どもたちは、早速、修正作業に入ります。やり直しを面倒に感じる
どころか、率先して行おうとするのは、もっとよいものがつくれる!という
見通しを持てているからでしょう。
だからといって、悠長に直している暇はありません。締め切りまで残された
時間はわずかです。飽くなき質の向上のために粘るには、残業も必要だし、
よりいっそう集中して作業に臨まないとダメになってきました。けれども、
質の高いアウトプットを出したいという気持ちに火がついた子どもたちを
もう止められません。
「残業したいんだけど」
おお、ついに志願残業です。時間の許す限り、磨いて、磨いて、磨きぬい
て、よりよいものをつくりたい気持ちに満ちあふれ仕事に没頭。ホンモノの
「仕事師」と化しました。
RI
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