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旅の終わりに

タイトル:詩人の旅
探究領域:意思表現

[3・4年生]

「おっちゃん、もう最後なの」

いやあその気持ちはおっちゃんも同じです。もう5週間目で、旅も終わりになってしまいました。まだまだ旅をし続けていたい気持ちはやまやま。芭蕉先生のおっしゃった「漂泊の気持ち」に心ゆさぶれるとはこういうことなのでしょう。ああこのまま「奥の細道」のごとく旅をすみかとしたいなあ!という衝動にかられてしまいます。

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最後に訪れたのは、走水・観音崎。課題図書『日本の神話』にはまり、その中でも心ひきつけられたヤマトタケルとオトタチバナヒメの伝説の舞台に足をのばしました。

嵐の海を沈めるために身を投じたオトタチバナヒメ。その日を彷彿させるような雨模様でした。いつもならくっきり見える対岸(千葉県)がまったく見えず、内海のために天候とは裏腹に不気味に穏やかな海面を見ながら歩きます。

「もうオトタチバナヒメが飛び込んで海をしずめたのかなあ」

ある子がつぶやきました。早くも創作のイメージと結びつけているのですな。

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走水という名前は、海峡部分で潮流が速いという意味が込められていますが、豊かに「水」がほと「走」るところという意味にもとれるぐらいの「名水」の湧き出る場所なのです。今でも神奈川県民の大事な水源となっています。そんな「名水」を飲めるというのですから、のどをうるおします。

「やわらかい」
「ぬるいのにうまい」

蛇口から出てるただの水なのにこんなにうまいとは。

おいしい水を飲んでさらに元気になったところでまた歩く。目指すは走水神社。ヤマトタケルとオトタチバナヒメをおまつりする社です。

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「ついたぞ!」

日本の神話にはまり、八百の神様をカードゲームにしてしまった彼ら。そんな彼らが訪れたいと思っていた「聖地」にやってきたのですから、感慨もひとしおです。

「さねさし相模(さがむ)の小野(おの)に燃ゆる火の……ああ、あの歌だ!」

日本の神話の中に出てきたオトタチバナヒメが身を投げる直前にヤマトタケルに送った歌が立派な石碑になっているではありませんか。この碑を建てたのはまさに「坂の上の雲」に関わる人たち。東郷平八郎と乃木希典を含む当時の軍幹部でした。子どもたちはそんなことを知る由はありませんが、古代の神話と近代の歴史との交わりがこの地にはあるのです。

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あまりにもじっくり神社を参拝している子どもたちが珍しかったのか、神社の管理人さんがちょっと上がっていきなさいよと声をかけて下さいました。人と自ずと交わりが生まれるのも「旅」の醍醐味です。

社務所の中には、なんとオトタチバナヒメが入水する場面を描いた絵の「本物」が飾られていました。間近にみると髪の毛一本一本まで繊細かつ精密に描かれている本格的な日本画です。

海に二つの神輿を浮かべるお祭りを今でもすることや、どこにオトタチバナヒメの着物の袖や櫛が流れ着いたかについての諸説など、面白い話をたくさん耳にしました。

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そして……外に出ると

「ああアマテラスが出て来た」

ほんとうだ。もはやただの旅ではなく、神とともに歩んでいるような気になってきます。

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晴れてきた頃合いに海辺の磯づたいを歩きます。さっきより波が荒いような……三浦半島の突端、観音崎はもう目と鼻の先。太平洋が近づいてきた気配を感じます。

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岬にぽつんと立つのは、日本で初めてできた近代式灯台です。今でも働き続けている灯台に登ってみると

「わあ高い!」

絶景ですが、すぐそこに見えるはずの房総半島が、今日は視界が悪く見えません。しかし、ひっきりなしに海峡を通過する巨大なコンテナ船に目を奪われてしまいます。

「でっかい船だなあ。こんなに船が行き来してたら、海の信号みたいな灯台も気が休まらないだろうなあ」

人気のないところにぽつんと立ち、淡々と仕事を遂行する灯台のひたむきな responsibility を感じます。

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強い波が、幾重にも押し寄せ、眺めていて飽きることがありません。なんとも円形の穴がいくつもあいていて、幾重にも掘られた溝があり、複雑な形状をしている岩の上にいると、地面の先端で波と闘う岩の気持ちや反対に岩を削る波の気持ちが頭に浮かんできます。

そんな岩の合間にできた潮溜まりに目を移すと、さまざまな海の生物が!イソギンチャクに小魚。わあ、でっかいカニもはい出すよ。もちろんフナムシ君も走り回ります。

「えっ?もういかなくちゃいけないの」

ふつうの学校行事の時程では考えられないほどゆるいスケジュールなのにもかかわらず、あっという間に時間が過ぎてしまいます。そうだよなあこれが啄木や牧水だったらこのままこの浜にずっとたたずむのだろうなあという気がしてきます。

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豊かな生物と植物にあふれ、古代の歴史のロマンがあふれる土地でありつつ、砲台や要塞の跡がそのまま残る、近代軍事史の舞台。最後の旅にふさわしい場所でした。

さあ、こうして蓄積された体験からいったいどんな「詩」が編まれるのか。楽しみです。

RI

TCS2014年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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