テーマ発表会では、予想通り、大人たちから鋭いツッコミが続出しました。
「エコとはどういうことですか?」
「キャンドルを使った灯りはエコなんですか?」
「示した数値の裏づけはあるんですか?」
「提案したプランは既に実行したんですか?」
「ムダといっても人によって何をムダと思うかは異なると思うんですが」
子どもたちは大人達が投げかける本気の質問に対して、自分なりに考え、
誠実に答えようと努めていました。この体験こそ、高学年におけるテーマ
発表の最大の意義と言えましょう。
「しまった!そこはまだ調べきれていない!」
「ああ、やってなかった!」
と気づいたら、そのことを素直に表明し、これからやってみればよいのです。
また、自分がしっかり考えた末の見解については、ひるまずに再度説明
すればよいのです。こうして、子どもたちは、発表し質問を受けることで、
自分のやったこと、考えたことを見つめ直す機会を得ます。ひとりよがりに
ならず、他者からコメントをもらって謙虚に学ぶ姿勢を身につけてゆくために
テーマ発表と聴衆からの有益なフィードバックは不可欠です。
テーマ発表時には、提案したプランをまだ実行していなかったエアコン班の
子どもたちは、大掃除のときにスクール中のエアコンフィルターをきれいに
しました。そして、消費電力測定計を用いて、清掃前と後で消費電力量に
違いがあるのか調査することにしたのです。
ふりかえりの話し合いでは、大人から得たフィードバックを参考にして、3つ
のことについて考えました。1つ目は、夏休み明けから、スクールのみんな
に「節電」への協力を求め、エアコン・電灯・冷蔵庫の電力量を削減すること
です。提示したプランの実効性がなければ、納得してもらえないことは子ども
たちは自覚しています。だからこそ、支払い料金の削減という目に見える
成果によって自分たちの節電プランが有効であり、きちんとそのプランを実行
したことを示そう!とみんなの意見がまとまりました。2つ目は、もう一度、
「エコ」とはどういうことか考えてみようということでした。「エコ」とは、「エコ
ロジー」という言葉の略語であり、「省エネ」と直接結びつく言葉ではありま
せん。人間を含め、動物、植物を含めた生物全体がバランスを保って共存
していること、つまり、人間だけの視点で自然環境をとらえないということが
「エコロジー」です。したがって、節電すれば電気代の出費が減るというよう
な個人中心的な視点では、どんなに節電に熱心にだったとしても「エコ」
とは言えないということを理解しました。3つ目は、何を「ムダ」と思うかは
人それぞれで、みんなを同じ方向に持ってゆくのは難しいということです。
新しい電気製品を手に入れるのを楽しむ人にとって非電化はあり得ない
ことでしょう。早く便利に済めばよいと思う人には、スローで、手がかかる
ことは苦痛以外のなにものでもないでしょう。個人のライフスタイルの多様性
を許す社会において、「エコ」の視点で人々の生活を規制することは難しい
ということを再確認しました。
自分たちが普段どれぐらいの電力を、何を使うことで消費しているか、それを
どんな対策によって減らすことができるか、調査・実験し、数値を出して把握
しました。そして自分たちが実行可能な節電プランを考えました。しかし、
それは新たな追究の始まりに過ぎません。みんなを納得させ、まきこむこと
を可能にする省エネプランをどう編み出すか、局所的な対策ではなく、全体を
見通した対策をどう考えるか……それは、来年、『ロストエナジー』での学び
に持ち越しです。終わりが新たな学びの始まり。考え、悩む日々は続きます。
RI
※TCS2010年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。