[1・2年生]
新年最初の1週間は、子どもたちそれぞれが関心を抱いた「外来種」について、冬休みの間に調査してきたことの発表から始まりました。
「お寺に出るタヌキが花を食べちゃった写真だよ」
お寺の息子である男の子は、お寺に住みついたタヌキのことについて調べ
ました。そのタヌキを撮影した写真も持ってきてくれて、それをみんなで
のぞきこむと、
「カワイイ!」
といっせいに声があがるほど愛らしいではありませんか。
お寺にタヌキ……と言えば、證誠寺(しょうじょうじ)のタヌキばやしを
思い浮かべてしまい、何とも似つかわしいと感じてしまうのですが、元々、
このお寺にタヌキが出ることはなかったとか。確かに杉並区高円寺と言え
ば、環七も近く、マンションや商業ビル、オフィスビル、家が隙間なく立
ち並び、野原はほとんどなく、野生動物が住むのにふさわしいようには見
えません。
都市化が進んだ後でタヌキが住みついた?
つまり、この地域にとって、タヌキは自然侵入による「外来種」なのです。
これはなかなか不思議なことではありませんか。実際に杉並区は、23区の
中でもタヌキ発見率の高い地域のようで、少なくとも150頭のタヌキが生息
しているそうです。
「いろんなところに糞をするから困ってるんだ」
とその子は報告してくれます。ただ、それは人間側の事情です。タヌキには
タヌキにとっての事情があるはずでは?とゆさぶってみると、
「タヌキは雑食だから、ネズミとか以外にもゴミもあさるからなあ……」
なるほど!人間がタヌキの住みやすい環境をお膳立てしているというわけ
ですね。そんなタヌキを襲う天敵も見当たらないし、お寺には浸入しやすい
隙間がたくさんあって居場所もバッチリ。タヌキにとって「都市環境」こそ
食住完備で敵なしのパラダイスなのかもしれないということが明らかになっ
てきました。
さあ、今度は、東京に突如現れた熱帯からの「外来鳥」について調べてきた
子の発表です。その鳥の名は、ワカケホンセイインコ。鮮やかな緑色をした
美しい鳥です。本来は、スリランカなどに生息する鳥なのですが、なぜか
東京都市部に住みつき、活動するようになりました。この「外来種」は集団
で固まってねぐらを形成するらしく、大岡山の東京工業大学キャンパス内に
そのねぐらがあると言われています。その場所をこの子は訪れたのでした。
冬至を越えたばかりの夕刻。寒さと戦いながら、いつになったら戻ってくる
か……と待ち構えていると、もはや闇におおわれそうな5時ごろ、何百羽も
のワカケホンセイインコがいっせいにねぐらに戻ってきたそうです。
「たくさんいて、すごかったよ!」
実際に目撃したものだけが語り得る「迫真」のレポートに、その興奮が聞い
ているみんなにも伝染し、緑色の無数の点がどこからかやってきて、散らば
ったかと思うと闇の中に消えていった様子がありありと見えるような気がし
ました。
でも、どんな経緯で熱帯の鳥がやってきたのでしょう。質問してみると
「ペットして飼われていたのが逃げて、それが増えたんだって」
なるほど、タヌキとは違って「自分の意志(?)」ではなく、人間が海外から
持ち込んだものが逃げたり、捨てられたりした結果なのですね。
この子は、TCSのすぐ近くに事務所がある日本鳥類保護連盟でワカケホンセイ
インコを調べている方にメイルを送ってさらに調べました。すると、一時期、
東京近郊において2000羽を越え、このまま増え続けるかもしれないと警戒し
たものの、最近では、1500羽程度で落ち着いているということがわかりまし
た。また、農作物への被害も特に報告されておらず、ねぐらやエサを競合する
鳥との間で生態系のバランスを崩すほどの問題が起きてもいないようです。
東京には、ワカケホンセイインコのように、目立って生態系を壊すようなこと
はなく、なんとなくいついてしまう「帰化鳥」が他にもいるそうです。その中
で、突出して増えすぎるものが出てくると「危険外来種」に指定されるわけ
ですが、ワカケホンセイインコは、スズメやカラスとともに、東京という環境
になじみ、人々も珍しがらない存在になりつつあるようです。
「絶滅危惧種」や「外来種」の問題が、実は、自分が毎日暮らしている「身近」
なところで起きていることが、調べてみていっそう実感としてとらえ始めた
子どもたち。いよいよテーマ発表に向けて、この問題に対して、自分たちは
どうしていったらよいのか考えていきます。
RI
※TCS2012年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。