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私たちは私たちのために生きている?

[5・6年生]

「葬式劇するんでしょ……」

前回行った「個の尊厳」のテーマ発表を見た子どもは、ミラクル
ハイパーステージで行った「葬式劇」をよく覚えていました。

ここで気にかかるのは、

「えっ?おっちゃんが死んだときのことを劇にするの?」

と初めて耳にするのと、

「ああ、またおっちゃんが死んだとして劇をするんだね」

というのは、やはり大きな違いがあるということです。ともすると、
ああ、自分の将来のことを語る弔辞を読めばいいんだなという、悪し
きルーチンワークに陥ってしまう可能性があります。これでは探究
にはなりません。

反面、前回のアウトプットイメージを持ちながら、いったいなんで
あんな学びをするのか、どんな意味があるのか、と考えてくれれば、
その「違和感」が学びを深めるきっかけとなります。むしろ、「葬
式劇」というセンセーショナルなアウトプットにのみ心を奪われる
ことなく、冷静に学びを進めてゆくことが可能とも言えます。その
ために、どうして葬式劇なのか、さらに葬式劇と「個の尊厳」とい
うテーマタイトルがどうつながるのか、というところに子どもが着
目してくれるように仕組むことが大切です。

そこで、今回のセントラルアイデアである『私たちは私たちのため
に生きている』ということが何を伝えようとしているのか考える際
に、こう問いかけました。

「私たち」の部分を「私」に変えてみたらどうなるか?

”たち”を抜いてみると……

”私は私のために生きている”

となってしまいました。

「なんかあたりまえだな……」
「わがままな感じがする……」

「たち」のあるなしだけで、こうも印象が変わってしまうことに
すぐ子どもたちは気づきました。

TCSで守らなければならない3つの約束の中に「自分を大切にする」
という項目がありますが、「私のため」と限定してしまうと、自分
さえよければいいんだという感じになり、どうも「自分を大切にす
る」こととはズレがありそうだという「違和感」を子どもたちは抱
きました。

では、続いて、「私のため」を「私たちのため」としてみたらどう
なるか考えてみました。

”私は私たちのために生きている”

一気に「滅私奉公」というイメージが浮かび上がってきました。
「私たちのため」というのを「お国のため」と言い換えれば、国家
の命令に服従し、自己犠牲も厭わないという思想がちらつきます。
TCSの3つの約束の2つ目、「人を大切にする」ということと
一見重なりそうに思えるものの、「人を大切にする」という目標の
真意は、「I am special and You are special」ということなのだから
大きくズレている。決して、他者だけが大切だとは言っておらず、
あなたはかけがえのない人だけど、あなただけがかけがえのない人
ではなく、他の人もみんなかけがえがない!というのが「人を大切
にする」ということだとはっきりします。

結局、”私たちは私たちのために生きている”ということは、自分も
人もどちらも大切にしないといけない!というごくごく当たり前の
ことを言っているに過ぎない……

いったいこのテーマは何を目指すんだろう?という気持ちが子ども
たちにわきつつあるのを見計らって……

「『生きている!』ということを理解するために死ぬ!とか葬式!
とかについて学ぶなんて変じゃない?」

というさらに「思考を撹拌」する刺激的な問いかけをします。

さあ、子どもたちがこちらが望む、「この人、何、わけわかんない
こと言ってるの?」という顔つきになってきました。頭の中がぐら
ぐらゆさぶられているのが明らかです。

「私たちは私たちのために生きていると言われると当たり前だと思
うよね。でも、それってどう生きることと言われると、実ははっき
りしない。でも、私たち人間に必然である”死ぬ”ということを考え
てみるとより深く見えてくるかも?っていうのが今回の仕掛けだ。
個の尊厳、つまりひとりひとりがこの世に生まれてきた意味も見え
てくるかもしれない……そんなことを追究する旅に出よう!」

と伝えます。死を通じて見えてくる生きることの意味。そしてそれ
は私のためだけでなく私たち全体のために生きることから見えてく
る。そうすることがかえって個の尊厳を明らかにすることにつなが
る……

追究すべき個々の断片は明らかになったものの、どうつながるのか、
子どもたちには見えていません。でも、心の内にわいてきた「違和
感」をなんとかしたい!という気持ちが高まりつつあるようです。

「ではまず、死ぬとはどうなることか考えてみることからスタート
しよう」

マイニングマップによって子どもたちが「死ぬとどうなる?」と考
えているか探ってみました。予想通り、自分が死んだ後、死後の世界
に行くのだろうか……死んだら消えてしまうのか……ということに終始
し、「個」の死が「他者」に与える影響。つまり、私の死が他の人
たちにどんな影響を与えるかは見えていません。また、他者の死が
自分に与えるインパクトについても、ほとんど実感できていません。
これが何不自由なく、幸せに暮らしてきた子どもが「死」について
抱く通常のイメージでしょう。

次週は、この先行知識をふまえ、自分が感じることができる「死」、
つまり「見える死」「他者の死」についてビデオや本を読んで考え
を深めてゆきます。

RI

TCS2012年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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