[6年生]
なかなか仮説がまとまらず、いつまでたっても追究すべき「コンセプト」を固められない子がいました。その子は、自分がやりたい「テーマ」は
あると主張します。そして、Exhibition の一番大事な要素である "passion"
をその「テーマ」について抱いているとも言うのです……
一方で、このままだとただその「テーマ」について調べるだけで終わって
しまい、やはり「コンセプト」を固めないとダメだともわかっています。
どうしたらよいのか途方にくれ、先に進めない……
この子にどうアドバイスしたらよいか私も悩みました。
とはいえ、このままではただ停滞し、いたずらに時が過ぎるだけです。
「これを調べたら?」と「問い」を与えてしまえば先に進むでしょう。
しかし、せっかく「テーマ」が見つかっていて、追究すべき意義のある
「テーマ」なのにもかかわらず、自ら「問い」を作り上げずに、与えら
れた「問い」を追究してしまったら、Exhibition で育みたい重要な要素が
抜け落ちてしまいます。
struggle の末に自ら「問い」をつかみとらせるためにどんな「仕掛け」を
したらよいか……探究教師の思案のしどころです。そんなとき、オーソドッ
クスな手法でありながら、やはり大きな効果を持つのが「良著」の提示
です。Exhibition を行うときに、手助けする周囲の大人がすべき仕事の中
で、いちばん大事なものと言ってもよいでしょう。この場合、何をもって
「良著」と判断するかと言えば、やはり、「読んで inspire される内容」
を含んでいるということです。この子の場合、選んだ「テーマ」に関して、
通説とは異なる新たな見解を示し、大きな話題を読んでいる本があり、
本人もその本に強い関心を示していました。そこで、まずは、この本を
しっかり読んでみることから始めるように促しました。
ただし……ただ読ませるだけではダメ。「問い」を発見するために
“能動的に読む”
ように導かなければなりません。
『共存共生しなくてはならないがそこにはどうしても conflict が生じる』
というビッグアイデアを Exhibition で追究します。このビッグアイデア
を自分の関心のある「テーマ」に落とし込んだ場合どうなるか……そのとき
にどんなことを考えなければならないか……という思考プロセスを経て、
自分の追究すべき「コンセプト」が明確になります。
この思考プロセスを「触媒」するものとしての「読書」こそ、“能動的に
読む”ということなのです。
したがって、ただ知識を得るだけに漠然と読んでは意味がありません。
読む時の「観点」を明らかにして読み進めなければなりません。それを
読み始める前に確認します。まず、1つ目の観点は、どんな conflict が
存在し、著者がその conflict をどう乗り越えたか明らかにすること。
そして2つ目の観点は、不思議に思い、もっと知りたくなったことは何か
しっかり記しておくことです。
このように観点を明確にして読み進めると、自ずと「問い」が涌き上って
きます。
「殺虫剤で害虫を殺したり、除草剤で雑草をなくしたりすることでその
植物が持っている本来の強さが失われてしまうっていうんだけど、もし
著者のこの主張が正しかったら、みんな著者のやり方で行っているはず
なんだ。そうならなかったのは何かきっとここで書かれていない原因が
あるんじゃないかなあ……」
ほらほら早速出てきましたよ。これこそ“能動的読み”によって導かれた、
子ども自身が見つけ出した「本質に迫る問い」です。ただの思いつきで、
場当たり的な「問い」ではなく、ビッグアイデアにつながる意義のある
「問い」がようやく見つかり始めました。
「問い」を出しながら能動的に読み続け、その後、見つけた「問い」を
吟味し、選ばれた「問い」を追究してゆく……
ようやく Exhibition を進める端緒にたどりつきました。
RI
※TCS2011年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。