[5年生]
これまでみんなで議論してきたことをスピーチにまとめる作業。このテーマ学習で初めての個人作業が始まりました。3人ばらばらになって原稿を書きます。
電力50%削減という目標は同じですが、どんな政策でその目標を果たすか、どんな
根拠で聴衆の「共感」を得るか、についてそれぞれ知恵をしぼらなければなりません。
「もっと話す時間長くできないの?3分じゃあ短いよ」
うまくスピーチをまとめられず煮詰まってくると、言いがかり(?)をつけてくるのが
子どもの常。
「確かに時間が長くなれば、説明できる量が増えるだろう。でも、いろいろごちゃ
ごちゃ言って、かえって言いたいことがぼけることにもなる。3分で相手に届かない
主張をいたずらに数分伸ばして語ったところで意味はないね」
と突き放します。
と同時に、アイデアふくらませるだけふくらませて、その後、しっかりそぎ落として、
3分の主張にまとめてみよう!とアドバイスを加えます。“まず広げて!”と言われた
のだから、スピーチ時間を伸ばして!と言った子にとっては「朗報」のはずなのに……
結局、長くすることもなかなかできず、やっぱり立ち往生。簡単に増やせるのは主張の
“数”だけだったとやっと実感し始めたようです。主張ばかり増えても、意見が拡散し、
ますます言いたいことがなんだかわからなくなるだけ。“広げる”というのは、手を変え、
品を変え、さまざまな角度から根拠づけて、コアとなる“主張”の納得性を高めることだ!
と知った……ただ、それは “how”を知っただけ。どんなに “how” がわかっても肝心の
“what” が思い浮かばなければやはり先には進みません。
「森の中で暮らす……」
ある男の子は、そこから先に進まず、ペンが止まったままです。
せっかく生き方、働き方を変えるという主張が固まったのに、それをどうサポートするか
となると、「思いつき」レベルの「根拠」から発展できないのです。
スタートは思いつきでよい……では、その思いつきをどう裏づけたらいい?
いっしょに考えてゆきます。
「森で生活するっていうことは自然の中で生活するっていうこと?ただそう言われても
あまり生活がイメージできないんだけど……」
「う~ん、自然の中で働いた方がオフィスで働くよりもいいっていうこと。満員電車に
揺られて、密閉されたオフィスで働いてもいいアイデアでないと思う」
「そうか、つまりオフィスで働くということが問題なんだね」
「うん」
「じゃあ、オフィスで働くことのマイナス面と電力消費量の関係を見ていこうよ」
資源エネルギー庁が作成したエネルギー白書の中で、役立ちそうなデータを抜粋した
ものを小冊子にして渡してあったのですが、それを見てゆくと、オフィスのエネルギー
使用量がここ20年の間に2.5倍も伸びていることがわかりました。しかし、だからといって
オフィスワーカーを減らせば、電力量を大幅に減らせるとすぐに結論づけるわけには
いきません。都会のオフィスではなく、家庭または田舎で働けば、エネルギー節約と
個人の働き方の活性化との一石二鳥だ!と言える根拠が必要です。
家で働けばかえって家庭でのエネルギー使用を増やし、オフィスの分が減っても結局
相殺されるかもしれない……
田舎でどんな働き方をすればアイデアがでるのか……
仕事はアイデアを出す仕事だけなのか……
perspective を変えて自分の意見を眺め直せば、どんどん答えるべき疑問が浮かび
上がってきます。
資料を調べてみる……オフィスでは、照明、空調、熱源に7割以上もエネルギーを使って
いることがわかる……通勤にもエネルギーを使っている……工場で使われている電力量
はほとんど増えていない……家庭ではIT機器にほとんど電力を使っていない……
複数のデータが集まってきました!
さて、どんなことが言えるか???ここで必要なのは“大胆な”発想力です。それが
今回の学びのひとつの大きな柱でもあります。田舎で家庭に隣接した働き場所として
どんな環境を作れば、エネルギー節約と働き方の違いを両立できるか……常識的な
発想にとらわれず、大胆な改革案を提示して、人々の「共感」を喚起することができる
でしょうか……
ここから先、私の役目は、ひたすらよき聴き手として、どこに共感したかフィードバック
するのみです。子どもたちは、フィードバックを聴いて、もし自分の考えが通じていない
と感じたら、自力で手直ししなければなりません。何度も書き直してゆくうちに次第に、
自分の意見へのresponsibility が強まってゆきます。自分の主張として、責任を持って
書き上げたスピーチが、どこまで人々の「共感」を得るのか……後はテーマ発表会の場
でぶつけるのみです。
未来の自分たちが生きる社会をどうしてゆきたいか、総理大臣候補の決戦の日がついに
やってきました。
RI
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