[5年生]
スピーチという発表形態は初めての子どもたち。スピーチの「内容」をまとめるのに先立って、どんなスピーチが人の心を打つのか、モデルとなるスピーチを知る必要
があります。そこで、スティーヴ=ジョブスがi-podを初めて紹介する際に行ったプレ
ゼンをYouTubeで見てもらいました。
ジョブスのスピーチについては、『ジョブス驚異のプレゼン術』という本が大ヒットした
ように、私たちがプレゼンするときに「まねる」と有効なエッセンスがつまっています。
「あなたはこう思ってるでしょ?ってなんどもなんども繰り返すよね」
ある子が、ジョブスのプレゼンの本質に迫るポイントを見事に発見しました。さすが
ジョブスマジック。英語に日本語字幕がついたスピーチを見ているのに、穏やかで
ゆっくりと、わかりやすく、最小限の言葉で説明されるジョブスのプレゼンに、子ども
たちはひきこまれ、“もう一度見たい!”と言い出し、繰り返し見てゆくうちに“まね
したいポイント”を見つけ出しました。
・これまでの製品と自分の製品との違いを比べる
・比べるときに、圧倒的に自分の製品が優れている「数字」を見せる
(“1000曲も入っちゃう”)
・相手が知りたいこと、疑問に思っていることを先回りして語る
(“バッテリーはちゃんと長時間持つのと思ってる人もいるでしょう”)
・「小さい」ということを「ポケットに入っちゃう」という言い方で表現するように聞き手
に自分が使ってるときの状態をイメージさせるように語る
まず、聴衆をつかむ語り……続いて、イメージしやすい根拠に基づき、相手の思考
の流れに沿って自分の製品の優位性をアピール……最後に、「本物」のi-podを
見せて、聴衆を「あっ!」と思わせて終わる。
効果的なスピーチの基本構造を子どもたちは理解しました。
相手の共感を得るスピーチの「イメージ」を持てたところで、いよいよ、肝心の「中味」
について練り上げるフェイズに入ります。
今回のスピーチの目的は、「知識の披露」ではありません。何度も繰り返し述べて
きたように、“balanced”な思考スタイルで「判断」した「考え」を示すことです。
今、どうするかだけにこだわらず、これからどうしていったらいいか、
“responsibility”
を持って示すために、みんなで目指してゆきたい「未来像」を描き、示すことです。
そのための「仕掛け」であり、「制約」が、「電力50%カット政策」なのです。
「じゃあそんな世の中はどんな世の中なのか、ジョブスみたいに聞き手がその世の
中をイメージしやすいように具体的な姿を描写してほしいんだ!」
とはいえ、50%電力カットでの充実した生活をイメージして!と言われても……
コンビ二が多すぎるからコンビ二を少なくする、朝早く起きて夜早く寝るというアイデア
から発展しません。
コンビ二に依存しなくても豊かな世の中とは?
昼間働くだけで残業のない世の中とは?
と問いかけても、イメージがすぐには広がっていかないのです。さあ、ここでなんとなく
耳にした「知識」にしばられて、大胆にイメージを広げられないならば“balanced”な
思考スタイルは発揮できません。そこで、50%電力カットによる「負の側面」を先に
考えてみるように促しました。すると……
「電気が足りなくなって、停電がしょっちゅうおきて仕事ができなくなる」
「日本の工場が海外に出ていって“空洞化”する」
予想通り、早速、テレビなどでよく言われている理由が出てきました。
「じゃあ、そうなってもいいようにするにはどうする?」
最悪な状況を「前提」として、それをどう前向きに乗り越えられるか“大胆”に考えて
みようと問いかけました。
「電気をいっぱい使ってしまうのは、“物”を“生産”するときかも。」
「“モノ”じゃなくて“アイデア”を生産するんだったら、電気はそんなにいらない。」
「アイデアを出すんだったら東京じゃなくていいし、もっと田舎でのんびりしたところの
方がいいアイデアが出そう。」
「暑い夏は、涼しいところへ移住し、寒いときは、温かいところに移住する、渡り鳥
みたいな暮らしもできるよね」
「みんなが一緒のところにいつもいなくてもアイデアの交換はできやすいもん」
「会う頻度を減らせるし、時間も融通きくようになるから料理とかにも時間とれるよね。」
「そうしたらコンビ二いらなくなるよ。」
いつもみんながいっせいに都心のオフィスに通う働き方でなくなれば、東京周辺に
固まって住むことはなくなる。そうなれば、住む場所を自然豊かなところに移せる。
家の構造にも気をつかえば、エアコンの電力量を減らせる。ただ、お互い離れたどうし
のコラボが増えるからIT機器はもっと大事になってくる。もっと省エネで蓄電力も高い
製品にする必要がある。ただ、太陽光で、個々のIT機器を充電することは可能になる
かも。働き方がフレキシブルになれば余暇が増えて、不便さを楽しむ余裕が生まれる
んじゃないか……
1ヶ所突破口が生まれると、次から次へと波及していろいろなアイデアが出てきてしまう
ので不思議です。次第に、50%電力カットでも魅力的な世の中になりそうだという具体的
なイメージが子どもたちの中にできあがってきました。
さあ、ここまでは、みんなでイメージを広げる作業をしてきましたが、最終週は、みんなで
考えたアイデアを自分なりの視点で料理し、差別化して、他者の共感を得る「未来像」
をまとめることに挑戦です。つら楽しい怒涛の1週間が始まります。
RI
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