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「個存個生」から「共存共生」へ

[5年生]

「放射能が恐いから、日本を捨ててどこか島へ逃げる!」
「原子力をやめて全部火力にすればいい」

当初、公言してはばからなかった子どもたち。

テレビで聞いたこと……親が話していたこと……断片的な情報が雑多に入り混じり、
もっともらしい意見を述べていただけでしたが、数週間の学びを経て、それはどうも
おかしいぞ?という「意識」は芽生えてきました。過去の先輩が学んだことをふりかえ
ったり、さまざまなデータを見比べたりしたことで、多面的に考える意義を実感し始め
たのは一歩前進です。

しかし、問題はこれからです。葛藤する2つの考えに直面したら多面的に見て判断
することが大事だと知っても、だから、自分だけでなく、みんなのことも考えようとは
思えないからです。

“balanced”なものの見方を実感したからといって、即、“responsibility”のある態度
にはつながらない……

このままでは、どんなに学びを進めても「個存個生」にとどまり、「共存共生」の探究
にはなりません。

どうしたら"I"という意識を拡張して、"We"という意識を抱くようになるか……そのため
の「仕掛け」が必要です。自分のことだけ考えていられない「仕事」とは……

「政治家」です。

そこで、子どもたちに「総理大臣候補」になってもらい、

“人々を幸福にするエネルギー政策を訴える!”

というミッションを提示しました。

日本の総理大臣はころころ代わるよね……鳩山さんはダメ、菅さんもダメ……と、ただ
「批判」だけする子どもたち。これは、無責任に発言し、愚痴るだけで、自ら行動し、変え
てゆこうという気概のない世の大人たちを鏡とした子どもの姿です。もし、今の首相が
ダメだとして、じゃあ、あなただったらどうするの?と

“perspective”+“responsibility”

という思考のサーチライトを使って考えられる人に将来なってほしい!そんな願いが
この学びには込められています。

「自分だけよければいいと考えず、みんなの幸福を考え、“こうなったらいいよね!”
という将来へのヴィジョンを“こうすれば実現できるよ!”とみんなが納得するような
根拠とともに示す政治家に“なりきって”もらいたいんだ!」

(おっちゃんのテーマだから、ただアウトプットして終わりということはないと覚悟してた
けど今回はそうきたか……)子どもたちは、“面白そう”半分、“大変そう”半分といった
複雑な表情を浮かべました。これはよいサインです。これまでもさんざんテーマ学習を
やってきましたが、ただ子どもが「やったー」と喜ぶのもダメ、「わあやだ」としか感じられ
ないものもダメ。高学年の場合は特に「つら楽しい」感じがないとうまくゆかないのです。
子どもたちは、「総理大臣になる」というアウトプットに「つら楽しい」部分を感じとった様子
なので、まずは第一段階はクリアといったところでしょうか。

次に、“リアリティと大胆さ”が両立するように

“もし総理大臣になったら”という「架空のシミュレーション」でありながら、単なる「お遊び
ごっこ」で終わらない「リアリティ」を作り出し、

テレビの情報番組で言われているような節電対策や、エネルギーに関する本や資料に
書かれている提言のコピーではなく、「大胆な発想」をするように子どもたちを導く

「制約」

を設定して、子どもたちの「探究心」に火をつけます。

制約その1 オイルショックならぬ“アトミックショック”に見舞われている日本の電力
使用のあり方を根本から見直す。このため、新たな発電手段さえ見つかれば現状通り
発電する、あるいは発電量を増やすという政策はとらない。

制約その2 現在の発電量を50%カットする。今のままだと原発が全停止してしまう
可能性もある。そうなるとそれだけで30%のカットを強いられる。さらに、地球温暖化
ガスのことを考えると火力にばかり頼れないし、再生可能エネルギーの開発にも時間が
かかる。となると、節電だけではどうにも対応できず、社会システム、ライフスタイルの
根本的な変革を迫る大胆な発電量カットが求められる。

制約その3 50%の発電カットをしても、耐え忍び、つらい暮らしになるわけではない
という具体的なイメージを示す。1975年の発電水準に戻せば、50%カットになるが、
昔できたから今もできる、あるいは昔に戻ればよいという発想ではダメ。

制約その4 50%カットを可能にする「根拠」は、単に荒唐無稽な発想でも、希望的な観測
でもダメ。現実的に対処可能であることを数字などの根拠とともに示す。

以上の「制約」に基づいて、「政策」をまとめ、テーマ発表会のときに、総理大臣候補
として3分間スピーチを行います。その際に、アメリカ大統領選のように、お互いの意見
について質問しあって、自分の意見の優位性を示すチャンスが与えられます。最後に、
自分の政策がどれだけ聞き手の心を打ったか知るために、テーマ発表会の聴衆に投票
してもらいます。

さあ、リトル政治家は「政策提言」へ向けて動き始めました。ひとりよがりの政策では、
みんなの共感は得られませんし、納得のいく根拠が示されなければ、信用してもらえ
ません。だからといって、夢と希望を与えない政策ではやっぱり受け入れられない
でしょう。

あと2週間、探究教師としての私の役割は、彼らが、理想を追い求める心ある政治家
として動けるように、彼らの思いを実現する「根拠」を探す「政策秘書」としての役割を
果たすことです。

リアリティかつ大胆に……

イノベーティヴな発想を生み出すべく、「チーム50%」いざ発進です!

RI

TCS2011年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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