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「虚構」から生まれる「真実」

[5・6年生]

30年後、77歳でおっちゃん死す。
おっちゃんはどう死んだのか?おっちゃんはどう生きたのか?……

30年後という「設定」は、単なる「虚構」と考えられない、妙なリアリティがあります。
これがもし今、突然亡くなったという「設定」だったら、おっちゃん死んじゃった!どう
しよう!という発想から抜け出ることは難しいでしょう。30年間、私も子どもたちも
どんな境遇に直面し、どんな生き方をするのだろうか……このことを考えずに、私の
葬儀で何が起きるかを想像することはできません。

「もちを食べて死んだということもあるだろうし、事件に巻き込まれて死んだという
こともあり得るだろう。しかし、かりに私が30年生き抜いた末に死を迎えるとしたら、
病によって衰弱して死に至るというのが、いちばんあり得そうなんだよな」

私の父は前立腺癌で10年間闘病の末に亡くなりました。私の母は、心室細動で
倒れたことがあります。父方祖父は、脳溢血。母方祖父は、血液の癌でなくなり
ました。こう考えると、やはりなんらかの病によって死ぬ確率が高いのです。子ども
たちにそう伝えると、なるほど……と納得はしてくれるものの、老年を迎え、、闘病
し、天に召されるとはどういうことか、当然ながら、イメージすることはできません。
そこで、『さようならエルマおばあさん』を読むことにしました。

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エルマおばあさんは、ある夏の終わり、お医者さんから多発性骨髄腫(血液の癌)
で、もう長くは生きられないと告げられました。それから自宅で静かに死を迎える
までの1年間、エルマおばあさんの傍らで過ごした写真家・大塚敦子さんがドキュ
メント写真絵本としてまとめました。おばあさんは、家族の歴史を書き残すことを
最後の使命とし、在宅での療養を続け、いざ最期が近づいた際には延命措置を
行わないという書類にサインします。

『死ぬってことは魂がこの体を出て、こことは別の世界に行くことなんだよ』

穏やかに死の訪れを受け入れ、この世を去ってゆきました。

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「年齢を重ねると誰でもエルマおばあさんみたいに死を受け入れられるのかな……
それとも、エルマおばあさんだったからこそ死を受け入れられたのかな……」

6年生の女の子から鋭い疑問が飛び出しました。

「なるほど、それは素晴らしい観点だね。君はどう思う?」

と、たずね返すと、

「やっぱり……エルマおばあさんだったからかな」

と答えました。他の子にもたずねてみると、

「私だったら、なんかやり残したことがあるんじゃないかと思って、後悔する気持ち
があふれてしまう」
「ぼくはもっと小さかった頃も、今も、死ぬのがすごく恐い……だから絶対にエルマ
おばあさんみたいにはなれないと思う」

エルマおばあさんはとても潔い生き方をしたように見えるけれども、実は生きること
をあきらめてしまったのではないか、もっと生きようと強く思えばもっと長生きできた
のではないかという意見まで出てきました。これまでの学びの積み重ねに良書との
出会いが加わることで、いよいよ子どもたちは、「死」というものを、深く実感し始めた
ことがわかりました。

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「おっちゃんは、エルマおばあさんみたいに穏やかには過ごせないでしょ?」
「きっと頑固で意固地になると思う」

子どもたちは、エルマおばあさんと私の将来とを比べ始めました。

「エルマおばあさんのように、病によって肉体は痩せ衰えてゆくだろう。その姿を見ら
れたくない、一人で静かに死なせてほしい、とイライラして言ってしまうだろうな」

私は自分の気持ちを率直に吐露しました。

「でも、きっとおっちゃんは、橋爪さんにエンバーミングさせてくれと言われたら断れ
ないでしょ」

私の心を見透かしたようにある子が言いました。

いよいよ、子どもたちが、30年後の私の葬儀という「虚構」に「真実」を見出し始め
ました。身寄りのない私が病院で亡くなったという知らせを受けた、40代になった
子どもたちが、私の葬儀をとり行わなければならない羽目になってしまう……
いったいどうしたらいいんだ……わからないことだらけだ……そこで、橋爪さんが
一番の信頼をおいていると言っても過言ではない葬祭ディレクターの是枝嗣人さん
にスクールに来ていただくことにしました。ただし、ゲストティーチャーとしてお話を
うかがうというのではなく、私の葬儀をどう行ったらよいか「本気で」相談するため
です。

子どもたちの「本気度」が、授業の翌日、是枝さんから頂いたメイルからひしひしと
伝わってきます。

昨日は貴重な体験をさせていただきありがとうございました。かなり真剣な生徒の
まなざしに、こちらが少したじろぐこともあり、話をしているうちに本当に40代のご遺
族とお話をしている感覚に陥りました。現場でもなかなか出来ない経験をさせてい
ただきました。 是枝嗣人

30年後の葬儀には、いったい何人参列するのか……そこには、今から10年後に
生まれた子どもで、TCSに入学し、卒業していった者も含まれる!

「私たちが40代なっちゃってるのに、まだ20歳なんだ!」

人と人とのつながりが時々刻々と編まれてゆく。私たちはそんなつながりの中に
織り込まれて生きているという「真実」に子どもたちは気づいてしまったのです。

「真実」が「虚構」から見えてくることがある。これを「葬式ごっこ」などと揶揄する
ことなどどうしてできるでしょうか。

次週も、良書と出会い、ディスカッションし、「死」と「生」の接点を見出しつつ、劇の
中味を洗練してゆきます。


RI

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