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橋爪さんにインタビュー

[5・6年生]

アメリカでエンバーマーとしてのトレーニングを受け、その後、心理学も学び、
遺族のグリーフサポートの必要性を日本に広めようと精力的に活動なさって
いる橋爪謙一郎さん。橋爪さんの生き方から「死」の「現実」とはどういうこと
なのかを学ぶために、インタビューさせていただくことにしました。

子どもたちは、インタビューに先立ち、橋爪さんとはどういう人なのか、予備
調査をすることにしました。これまでもテーマ学習ではさまざまな人にインタ
ビューを試みてきましたが、知りたいことがある程度明確で、ピンポイントで
質問できるようなものでした。それに対して今回のインタビューの目的は、
橋爪さんの人となりを浮き彫りにすることです。したがって、質問してただ知識
を得られればよいというものではなく、橋爪さん自身が本質的なことを語りたく
なるようなきっかけとなる効果的な質問ができるかどうかがカギになります。
そこで、まず、手に入る資料で橋爪さんとはどういう人なのか調べ、そのうえ
で質問すべきことを考えることにしました。

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最初に、橋爪さんをモデルとした『死化粧師』という漫画をテレビドラマ化した
ものを見ました。内容は、愛するわが子を失い、生きる目標を失いかけた
母親が、主人公、間宮心十郎のエンバーミングによって、まるで生きているか
のように微笑むわが子と再会し、「笑顔がいちばん大事なんだ」と言っていた
わが子の思いを胸に生きていくことを決意するという話でした。

子どもたちがもっとも注目したのは、やはりエンバーミング処置を施そうとする
シーンでしたが、そのシーンも、しっかりと描写されているわけではなく、体内
の血を抜いて、化粧するらしいぞ……となんとなくわかる程度。出演している
役者さんの演技力と、橋爪さんが監修したであろうセリフに真実味があるので、
それなりのレベルを保っているものの、わざとらしくコミカルな部分を入れたり
するので、深みのあるドラマには仕上がっていませんでした。

「子どもが息しているのわかったね」

瑣末な部分やギャグっぽいセリフしかあまり残らなかったようでしたが、これは
子どもたちのせいというよりも、ドラマが「死」の「現実」を伝えきれていなかった
からでしょう。

次に、橋爪さん自身が書いた著書『エンバーマー』からの抜粋を渡しました。
エンバーミングをどのような手順で行うのか、それによってどんな効果を遺体に
及ぼすのか、そして橋爪さん自身がどういう思いでエンバーミングを行っている
のか、丁寧に読んでゆきました。

「エンバーミングと死化粧ってどう違うのかな?」
「橋爪さんは、エンバーマーやめようと思ったことあるのかな?」

DVDをただ視聴したときと異なり、著作を読み進めてゆくと、自然に「疑問」が
浮かんできます。

「いい質問だね。読んでいるときに気づいたことは全部メモしとけよ!」

所詮、テレビドラマは、強烈な映像イメージと単純な方向に誘導するストーリー
展開で「見せられている」だけ。文章は、自分でイメージをふくらませながら
読み解いてゆかなければなりません。その結果、有意義な「疑問」が自然に
出てきます。これをしっかりメモしておけば、橋爪さんの人生を浮き彫りにする
優れたインタビューにつながる、よい質問の源になります。

“本に書かれていること、調べればわかることを質問してもよいインタビューには
ならない。相手の本当の思いを引き出し、語ってもらうような質問を考えよう”

このことを合言葉に、それぞれが「質問」を考え、インタビューに臨みました。

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橋爪さんのオフィスを訪れた子どもたちは、記者会見風に、橋爪さんに「質問」
を投げかけてゆくことにしました。

「どんな化粧品でエンバーミングを行うのですか?」

やはり、どうしても気になるのは、技術的な面への「疑問」です。

「ご遺体は体温がないでしょ。冷たくてもうまくのびるように脂分とかを配合した
ファンデーションを使うんだよ。」

穏やかに答える橋爪さんの言葉に、子どもたちは、単に化粧品の成分の「知識」
ではなく、死体の冷たさという、「死」の「現実」を感じ取ります。

橋爪さんは、自らエンバーミングのときに使う道具も見せてくれました。

「えっ?これだけ……」

誰かがつぶやくと、すかさず橋爪さんは、

「大地震などの災害で多くの人が亡くなったような現場でこそ、エンバーミング
が必要になるんだよ。そんなときは最低限の道具を持ってかけつけなくちゃ
ならないし、完璧に道具がそろってなくても、あるもので工夫しないとね」

微笑まじりで語りながらも、そこにはプロフェッショナルとしての技術に裏打ち
された自信と使命感がにじみ出ていました。

「エンバーミングをするときにどんなことを心がけているのですか?」

「ぼくは、ご遺体も人間だと思っているから、処置している最中、ずっと話しかけ
ているんだ。対話している感じかな。そうすると、その人がどんな人生を送って、
どんなふうな姿で送られたいか見えてくるような気がするんだよ」

「自分が大事に思っている人でもエンバーミングしますか?」

「ううん……難しい質問だね。そこにいるのが私の妻です。妻はもし私が先に
死んだら私をエンバーミングしてほしいと言っているんだけど、私は冷静にでき
そうな気がしない……」

橋爪さんの人となりを浮かび上がらせる本質に迫る問いも子どもたちから続々
と出され、あっという間に1時間が過ぎてしまいました。

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「自分の死はどうにもならないけど、他の人の死のためにできることはある。
だからぼくは、亡くなった方と遺された方々のために全力を尽くしたい!」

「悲しいときは、頑張ったり、我慢しないで、思いっきり泣いていいんだよ。
弱くて構わないんだ!」

橋爪さんは、子どもたちに思いを語ります。

他の子の質問に対する答えまでメモしなかったり、集中力が持たず、質問
から派生して橋爪さんが語った重大なメッセージを聴き逃したりした子どもも
いましたが、意義のある質問を考えてきていたこと、橋爪さんから発せられる
答えを必死に記録していたこと、一問一答ではなく、インタビューを通じて
さらにわいてきた疑問を質問し、深めてゆこうとしていたことなど、全般的に
子どもたちはよくやりました。

次週は、インタビューの成果を活かすために、じっくりふりかえり、橋爪さん
から何を学んだかしっかりまとめることからスタートします。

RI

TCS2010年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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