東京コミュニティスクール-探究型学習が教育の特長-全日制オルタナティブスクール(小学1年生から6年生)

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世界の人々とつながる

今年度初の高学年テーマは、5・6年生合同、計9名でスタートしました。

「ねえ、今回のテーマは何?」
「これまで誰もやったことのないテーマ?」

子どもたちは、授業開始早々、興味津々。

「そう、これは“初”テーマだ!」

と知らせると「イエ~ッ!」と声が上がりました。「駄菓子屋」「映画」「裁判」
「宇宙」など、先輩達がやったテーマで心ひかれるものはあるものの、自分
たちが新たに開拓するテーマに「期待」する心が育ってきているのも、これ
まで探究型の学びを積み重ねてきた成果の一つでしょう。

さて、子どもたちが新たに挑戦するテーマは、“どこにいても世界の人々と
つながることができる時代になった”ということを「実証」することです。通信
技術の発展は、実質的に世界を極めて小さくしました。その現実を実感し、

空間的な移動を伴わなくても人々とつながることが可能だ!
つながってみると、そこに思わぬ「化学反応」が生まれる!

という「衝撃」を体に刻みつけることを目指します。

テーマ学習の最初の時間は、与えた「テーマ」について子どもたちが持って
いる「既有知識」をじっくり探ることが大事。そこで、「世界の人々とつながる」
と聴いて、どんなイメージが思い浮かんだかたずねます。すると、真っ先に
出てきたのが「外国に会いに出かける!」という答えでした。

「なるほど……じゃあ、東京にいながらって条件をつけたら?」

そう問いかけを変えると……

「日本に住んでる外国人と会う」というように“直接出会う”イメージ。
「風船に手紙をつけて飛ばす」「ビンに手紙を入れて海に流す」という
ファンタジックなイメージ。
「日本語を教えてあげる」「日本の有名な場所やものとかを宣伝する」
という“日本を伝える”イメージ。
「困っていることがあったら助ける」「お金とか物を寄付する」「ボランティア」
という“支援する”イメージ。
そして「手紙を出す」「電話やFAX」「テレビ電話」「Eメール」という“通信手段”
のイメージ。

子どもたちの発言を書きとめていたら、あっという間にホワイトボードはうまって
しまいました。「つながる」と言われても漠然としているので、きっと悩むに違い
ない……との予想に反して、次から次へと子どもたちからイメージが飛び出て
きました。

「じゃあ、モノのつながりはどうだろう……」

続いて、既にモノを介して「海外の人々」と深くつながってしまっているという
現実について、どの程度子どもたちが認識しているか確かめてみました。

真っ先に出てきたのはやはり「食べ物」。「牛肉、小麦……」という“輸入品”
「牛乳、ピザ……」という“外来の食品・料理”
「でもねえ、日本の料理でも材料は輸入品に頼ってるんだよ」
社会で習った知識をポロッと口に出す子もいます。

すると、ある子が自分の服をめくってタグを見始めました。
「私のシャツ中国製!」
この一声が、反応する力に満ちている子どもたちに火をつけました。一斉に、
われもわれもと自分たちの洋服を調べ始めました。
「おれのはベトナム製だ!」
「私のパーカーは香港!」
突然、トイレに走り、はいているパンツまで調べた子は、
「おれ全身、中国だ!」
と叫びます。

「日本のものほとんどないじゃん……」
というつぶやきも聞こえてきます。

服だけではないはず……と自分の持ち物を片っ端から調べ始めます。
「リュックも中国だよ」
「筆箱もだよ」
「これ不思議、同じ会社の同じ種類の消しゴムなのに、あいつのはベトナム製
なのにぼくのは日本製だよ」
「のりはタイなんだね」
「スクールで使っているノートはインドネシアだよ」

アジアの国々を中心に「モノ」でしっかり「つながっている」ことを痛感しました。

モノでは既に深く結びついている状況の中で、再び「人」とどう「つながる」か
考えてゆきます。そこで、世界中の人々とつながるために「手紙」という手段を
用いてみること、その「手紙」で、つながった“証”として「何か」を送ってほしいと
お願いすること、というミッションを提示しました。

「何を送ってもらったらいいかな?」

ここでも、子どもたちから出される、柔軟で気の利いたアイデアの数々に驚かさ
れました。

主なものを挙げると、
石……どの国にもあり、その国の土地の成り立ちの歴史がわかるから。
ワインのコルク……アフリカにもワインはあると聞いたから。
押し花……その国を代表する花が手に入るかもしれない。
切符……外国の鉄道では降りる駅で切符を回収しないから家に持ち帰る。
レシート……その国の言葉が載ってるし、お金の単位もわかるかも。
この他に、お菓子の包み紙や、紙にその国の言葉で挨拶を書いて送ってもらう
といった面白いアイデアも出ました。

「不要なもので、結局、捨ててしまうものならもらえるんじゃないかな」
「でも、石みたいに重かったり、かさばったりするものは送料もかかるし、パッケ
ージも面倒じゃないかな?」
「花とか葉っぱとか外来の植物は、送っちゃダメだって聞いたよ」
「アフリカの普通の人はワイン飲まないんじゃない?それに外国のワインって日本
で手に入ると思うんだけど」
「オーストラリアに住んでたとき、近所の店で買い物しても、日本みたいにレシート
くれなかったよ」

なるべく多くの国にありそうなものは何か、送ってもらいやすそうなものは何か、
という観点だけでなく、海外に暮らしたり、旅行した経験のある子からは、知らず
知らず、比較文化的な視点からの意見も出てきます。

とても面白い議論ではあったものの、子どもたちの話し合いには大事なポイントが
欠けていました。それは“なんのために送ってもらうか?”ということでした。子ども
たちも自分が手紙をもらう立場だったら、「ああ、そういうことなら送ってあげよう!」
と思える“理由”がなければ、モノを送ったりしないということには気づいていました。
しかし、どうしても説得力ある“理由”が見出せず、送ってもらうモノを決められず、
いたずらに時間が過ぎ、やがて沈黙……。

そこで遅ればせながらアイデアを提示することにしました。実は、子どもたちの反応
があまりにもよく、当初は、もっと早い段階で発表しようと思っていたアイデアをここ
まで言わずに引き伸ばしていたのでした。

「実は君達にやってもらいたいことは決めていたんだけど、素晴らしい意見がたくさ
ん出てきて、思わず聴き入ってしまったんだ」と正直に吐露してから、

使用済み切手を集めて、ふつうの世界地図とは一味違ったオリジナルマップを作る

という計画を明らかにしました。

切手を集めるというアイデアは、子どもたちからも出ていました。そこに自分たちも
心ゆさぶられるような“理由”がつけ加えられたのですから、「それいいねえ!」と
みんなで大盛り上がり。自分たちが「いいな!」と思ったことなら、きっと相手も
「いいな!」と思ってくれるのではないかという思いがわいてきたようです。一体感
と納得感を抱いて主体的にミッション取り組もうという気持ちが高まったのは、ここ
まで十分にみんなで話し合い、知恵を出し合った末にたどりついたからでしょう。
与えられて、言われたことだからするミッションではなくなったのです。

あとは、だれに、どこに、「手紙」を出すかを考えなければなりません。日本に住ん
でいる外国人にアクセスしたり、外国に住んでいる親類や知人・友人に手紙を出し
たりすれば、返事をもらいやすいでしょう。しかし、子どもたちの心は、全く知らない
人とつながることにチャレンジしたいという気持ちでいっぱいです。そこで出てきた
のが、
友達の友達作戦……海外の友達に協力をあおぎ、彼らの友達・知り合いに協力を
要請する。
市役所に送る……海外の市役所に自分たちが作ったポスターを送り、それをはって
もらい、その下に切手を入れる箱をおいてもらう。
やはり、すぐに、面白いアイデアが飛び出しましたが、「実効性」がありそうなのは、
学校に手紙を出すというものでした。

「外国の小学校から手紙が来たって言ったら、子どもたちも喜ぶだろうし、先生だっ
たら協力しようと思ってくれるんじゃないかな」

鋭いところをついています。

いよいよ次週は、手紙に書くメッセージ作りです。こちらの思いを相手に届かせ、
動かすにはどんな内容がいいのか……

「英語で書くんだよね?」
「でもさ、英語じゃない国にも英語かな?」
「パソコンで書いた方が文字がきれいになるよ!」
「でもさ、手書きの方が気持ちがこもっているように見えるし、小学生ががんばった
っていう感じが伝わるかも」

早くも、どんな書き方をするかの議論が始まりました。自分がかつて通っていた
海外の小学校の住所をインターネットで調べる子もいます。「手紙」という古いコミュ
ニケーションツールに、インターネットという新しいコミュニケーションツールを融合
して、世界の人々とつながろうという大実験の開始です。

RI

TCS2010年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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