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半パンデイズ

「欲望」と「誘惑」のままに動いてしまう行動特性が明らかになったものの、
どうしたら打ち克つことができるのか……

ひとまず、自分がやっていることの分析は脇に置いて、他者の判断から
学んでみることにしました。題材としたのは、重松清の『半パンデイズ』
です。この作品は、中学入試にも多く出題されますが、それもそのはず、
子どもから大人へと成長してゆく過程で繰り広げられる微妙な人間関係
が見事に描かれています。作品に感情移入して、わがこととして読み込
める豊かな心を持った子どもかどうか見極めるのに適した作品と言える
でしょう。

半パンデイズ_01 半パンデイズ_02

「ねえ、おっちゃん、どうして何回も万引きしてるのに逮捕されないの?」

今週、読んだ部分は、クラスの中で目立たず、影の薄い存在だった二人が
万引きに走り、補導されてしまうというストーリーです。二人が、捕まった後
もこれまでと変わらず学校に来ている部分を読んで、不思議に思った子が
思わずつぶやいた「疑問」でした。

「そうだね。大人だったら警察で取調べを受けて、裁判を受けるまで出て
こられないかもね。でもさあ、学校に来ている二人の様子はどう?」

朝礼のときに校長先生から「万引きはよくありません」という一般的な話が
あっただけ。でも、そのとき多くの児童が、いっせいに二人のいるクラスの方
をちらっと見た。「ここだけの話なんだけど、あいつら万引きしたらしいぜ……」
ひそかにうわさが広がっていて、隠したところでみんな知っている。二人は
先生も含めみんなから静かに距離を置かれてしまった。それを察知した二人
も関わることをやめる。それを象徴したシーンが、教室の外のベランダに
ひっそりと立つ二人の姿だった。

なんで二人は万引きをしたのか?
万引き以外の選択肢は考えられなかったのか?

子どもたちに問いかけ、意見を出し合いました。

「お金を持ってなかったからでもないし、欲しいものがあったわけでもないよね」
「スリルを味わうというのとも違うみたい」

文章を何度も読み直し、二人の心理を想像してゆくと……

クラスでサッカーや野球をやるときは、人数合わせに加えてもらうだけ。もし、
ミスしようものなら「下手くそ!おまえのせいだ!」と責められる。勉強もできる
わけではないので、授業中も参加する場はない。体も大きいわけではなく、女子
にもけんかで負けてしまう。そんな気の弱かった奴が、薄ら笑いを浮かべ、生意
気な態度をとったり、背筋が寒くなるような言葉で脅しにかかったりするように
なってしまった。

「どうせ、っていう気持ちかなあ?」
「あっ、そうかあ、どうせおれたちはできないことばかりですよってことか!」
「でも、だからなんで万引きなの?」
「うーん~、そこはちょっとわからないけど……ただ、この二人は、また万引き
しそうだよね」

「どうせ」という大事なキーワードを子どもたちは「発見」しました。「どうせ」という
心理の根幹には何があるのか?

「面白くなさそう…なんでやるの?…“どうせ”無理…」

というネガティヴな気持ちの連鎖に支配され、素直にやってみようとせず、ちょっと
うまくいかないと、もうダメ……とあきらめてしまう。これでは、どうしても一時の
「欲望」や「誘惑」に流され、衝動的な行動に走らざるを得ません。

次週は、今週とは対照的に、うまくいかない状況で悪戦苦闘しながら成長して
ゆく主人公の話です。現実の自分のふがいなさに悩み、くじけそうになりながら
前進し続ける主人公が、どんな「意思決定」をし、その根底にはどんな「価値観」
があるのか分析します。


RI


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