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つながるためのメッセージ

世界中のできるだけ多くの国々に手紙を書き、切手を送ってもらうようにお願い
するというミッションが明確になり、いよいよ“どんな手紙を書いたらよいのか?”
考える段階です。こちらの思いを相手に届かせ、動かすにはどんなメッセージ
がいいのか徹底追究が始まりました。

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まず、手紙に盛り込むべき内容についての議論からスタートし、すぐに、挨拶、
自己紹介・学校紹介、そして肝心の何をお願いするのか伝えるという流れで
書こうと決まりました。続いて、議題は、具体的なメッセージをどうするかに転
じます。

「切手プリーズってただ伝えてもダメじゃない」
「切手にはその国の歴史的な人物や有名な場所とか代表的なものがデザイン
されているから、あなたの国のことがわかるかもしれないからくださいと頼むの
はどう?」
「相手の国のことならネットでも調べられるよ」
「あっ、そうか、手紙や切手は仲良くなるきっかけなんだよ」
「人から教えてもらいたいんだよね」
「じゃあ、切手だけじゃなくて、この手紙を受け取った感想を書いてもらったらどう
かな?」

ただ“ください”と頼むだけではダメだ。相手が「なるほど」と感じる理由が重要だ!
ということが子どもたちに強く認識されたようで、切手を送ってもらう「理由」の議論
が中心になりました。

「勝手なお願いだけど、ってつけ加えた方がいいよ」
「おかえしをした方がいいんじゃない」

目的と理由がはっきりしないと相手に伝わらないけれど、論理的でありさえすれば
よいわけではありません。最後にお願いの言葉や、送ってもらった場合のお礼に
ついても書いて、共感を呼ぶ工夫が大事だという意見も出てきました。

子どもたちみんなの頭の中に、どんな手紙を書くかのイメージがはっきりしてきた
ので、グループに分かれてみんなで協議しながら手紙をまとめるように促しました。
これまで議論してきたどの考えを取り入れ、どれを捨てるか、話し合いながら手紙
を創り上げてゆきました。

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こんにちは。突然ですみません。私は日本の東京にある東京コミュニティスクール
という学校に通っている〇〇です。この学校は全校生徒がたった16人しかいない
小さくて、変わった学校です。今、私たちは世界中の人々とつながるために、手紙
を送り、いろいろな国をよく知りたいと思います。そこでお願いしたいことがあります。
切手を私たちの学校に送っていただけませんか。なぜ切手を頼みたいかというと
切手だと各国の有名な物、伝統の物、歴史が分かると思ったからです。私たちは
その切手でオリジナルワールドマップを作りたいと思っています。勝手なお願い
かもしれませんが、使用済み切手で構わないので、ご協力お願いします。

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このような「素案」となる手紙がいくつか出来上がったので、これらを元にして、
英語の手紙を創り上げることにしました。ここからは、日英バイリンガルの英語
ネイティヴの先生と一緒に授業です。

海外の学校では、日本の学校の作文の授業ではあまりとりあげられない「実用
文」の書き方についてもしっかりトレーニングされます。特に「依頼の手紙」は、
実際に学校で子どもたちが取り組むプロジェクトとからめて「必要感」を持たせて
指導されます。

ネイティヴの先生が「参考」となる英文手紙として持ってきてくれたのが、イギリス
の小学4年生の授業で用いられる「依頼の手紙」でした。これは、がん治療に役
立てるお金を募金するプロジェクトのために、子どもに大人気の遊具をレンタルし
たいので、遊具レンタル会社に「破格の値段」で借りられないか交渉する手紙
です。なぜ「募金」と「遊具のレンタル」が関係するのか…?ということですが、
欧米の学校では、子どもたち自らがfundraisingするために何らかの催しを行う
ことが珍しくありません。この場合、学校に遊具を設置して、それで遊ぶ子ども
から料金を徴収し、募金を集めようというアイデアです。少しでも多く収益を上げる
ためには、遊具のレンタル料を下げたい……だから会社にお願いをする!という
わけで手紙を書く必要に迫られたのです。フォーマットとしては私たちが今やろう
としている「切手プロジェクト」とぴったり合うものでした。

当然ながら、子どもたちは、英文の手紙を読めません。

「読む必要はないよ。ただよーく眺めてみて!”絵”や“図”を見るのと同じように
眺めて、どんなことでもいいから気づいたことを教えて!」

と投げかけました。

「全部大文字のがある」
「最後にvery, very happy って書いてある」
「DEARって何?」

全部大文字だった文は “ST DEREKS NEEDS YOUR HELP!”
「“HELP!”って助けてってことでしょ?」
St Derekは小学校の名前。そこに“help”がついているので、学校が助けを
求めているのでは……と容易に想像がつきます。さらに、この文が手紙の本文
の冒頭に書かれていたことから、まず、「支援してほしい!」と強烈に訴えた方が
有効かもしれないと子どもたちは気づきました。

「どうか、どうか、お願いします」「本当に、本当に、うれしいです」と、日本語の表現
でも、強調したいときに言葉を繰り返します。「very, very happy」もそれと同じだ
とわかります。

名前の前に“Dear”をつけるのはなぜかという疑問に、ある子が「ハッピーバース
デーの歌に出てくる」とつぶやきました。のりのいい子どもたちはすぐに歌い出し
ます。「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピー
バースデーディア誰か~!あーっ、出てきたあ」と大騒ぎ。ということは……
あなたは大事な人ですよと訴えかけたいときに個人名の前につけて使えばよい
のでは?と気づきます。

じっくり手紙を眺め、特徴を探りながら、持てる知識を総動員して文の意味や構造
を子どもたちが類推し始めたところで、手紙に書かれた一文を真似して、自分たち
が訴えたい内容に書きかえるという「課題」に取り組むことにしました。

On March 28th, pupils at St Dereks Primary school are running a day of
fundraising activities, to raise money for cancer relief.

まず、この文を分析し、「日付」「だれが」「何をするか」「なぜ」という構造になって
いることを教えます。

「いつとは決まってないから日付はいらないね」
“日付”の部分はカットすることにしました。

「みんなでやるから、" I " じゃなくて" We " がいい」
“だれが”の部分はWeになりました。

「何をするか」は「切手を集める」で、英語でcollect stamps
「なぜするか」は「オリジナルワールドマップを作るため」で、英語で to make
an original world map

これをパズルのように当てはめて

We are collecting world stamps, to make an original world map.

という一文ができあがりました。子どもたちは、現在進行形も不定詞も知らないし
習っていません。ネイティヴの先生が翻訳してくれた言葉をなんとなくあてはめて
できあがった文に過ぎないのです。ただ、子どもたちにとって、自分たちの言い
たいことが英語に変換された記念すべき、感動の一文であり、教科書の例文の
ように自分とは無関係な無味乾燥な文ではありません。自分達のミッションを
完遂するために英語に翻訳することは避けて通れないと覚悟し、格闘し、生まれ
た文です。

「疲れたけど……なんとかできた」

その表情には、慣れない言語に取り組み、つらい部分もありながら、何かを成し
遂げた充実感が現れていました。

RI

TCS2010年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。



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