今回のテーマは「宇宙」。探究領域は「時空因縁」です。
宇宙というわからないことだらけの広大な「空間」が、百億年以上の
長大な「時間」を経て形成されました。この「時空」の流れの中で「地球」
が生まれ、生命が誕生し、多くの「因縁」の果てに私たちの現在の暮らし
があります。と同時に、私たちは、過去の「因縁」にこだわるだけでなく
未来への大きな可能性をかけて、地球から宇宙へと飛び出してゆく時代を
迎えています。未踏の地を夢見る強い思いに駆られ、新たな歴史を切り
拓こうとする態度を育てることを目指すのも「時空因縁」という探究領域
での学びに課せられた大きな使命の1つです。
「宇宙」についての理科的なお勉強を目指すのではなく、未解明な部分
の多い領域に大胆な仮説を立てて挑んでゆく力を育ててゆくことが今回
の学びの主目的です。そこで、宇宙についてオリジナルのSFをみんな
で協力して創作し、紙芝居として発表するという「課題」を提示しました。
SFとは「サイエンス・フィクション」のことで、単なる作り話ではなく、科学
的な事実もふまえた物語だということを子どもたちに伝えます。これまで
宇宙に関するSF物語を読んだり、映画を見たりしたことがあるかどうか
尋ねてみると
「ドラえもんの宇宙旅行かな……」
「ドラゴンボール?」
「ウルトラマンでしょう」
宇宙を舞台にした物語というと、エイリアンや怪獣との戦い、宇宙人と
の遭遇、UFOの地球侵略というのが子どもたちのイメージで、SFと言わ
れてもピンと来ないようです。
「取材が必要だと思わない?」
「フィクション」を書くところまではこれまで読んだマンガや見たアニメで
なんとかなるものの「サイエンス」のテイストを物語に加えるには、宇宙
についての知識を得る必要があります。取材して得た知識を物語に反映
するというタスクを背負って、さまざまな場所を訪れることにしました。
12月始めに東京国際フォーラムで開かれた「宙博(そらはく)」に続き
お台場の日本科学未来館を訪れ、円形のドーム状のスクリーンに映し
出される立体映像による迫力満点の映画を見て、宇宙空間、太陽、惑星
銀河についてのイメージをふくらませました。
そして……今週のハイライトは、つくば宇宙センターでの宇宙飛行士訓練
体験でした。
「本物のロケットだ!すげえ」
敷地内に入り、50m以上の長さの国産ロケットを見ただけで大興奮。
JAXAの食堂で多くのJAXAの職員に囲まれての“最後の昼食”。
「さあ、これからは過酷な訓練が始まるぞ!ぜひ立派な宇宙飛行士に
なってくれ!」
子どもたちに檄を飛ばし、子どもたちの気分を盛り上げます。
インストラクターに引率され、訓練センター内に入り、すぐに訓練服に
着替えます。本当に訓練が行われている場だからこそ漂う独特の緊張感。
模擬訓練とは思えなくなってきます。
訓練は全部で3種類。最初は、船外活動訓練でした。宇宙船外で作業に
当たる宇宙飛行士、現場で宇宙飛行士をサポートし、コントロール室へ
映像を送るカメラマン。コントロールルームで作業指示を出す指揮者と
全体の流れを監督する司令官。4役に分かれて作業開始です。
「ラッチをはずし、マジックテープをはがして下さい」
「了解しました……完了しました」
「カメラマン、宇宙飛行士の足元を写してください」
「了解しました……完了しました」
「確認しました。訓練その2に移ります」
あらかじめ用意されたシナリオにしたがって作業が進んでいるのですが
なんとリアルな雰囲気!与えられた任務を懸命にこなしてゆく子どもたち
が本物の宇宙飛行士に見えました。
続いて、閉鎖環境適応訓練。まず、コミュニケーション訓練を行います。
宇宙ステーションに閉じ込められると地球との言葉による交信が命綱に
なります。映像なし、つまり「耳」だけで指示を的確に理解し、また宇宙
ステーションの状況も「口」だけで的確に伝えるコミュニケーション能力
が問われるのです。
「大きな正方形で、線は青」
地上の指令室にいる子が、自分が手にしている紙に書かれた模様を
マイクを通じて言葉だけで閉鎖環境内に閉じ込められている子どもたち
に伝えようとします。
「大きいってどれくらい」
「辺の長さはどれぐらい」
「ちゃんと聞いてよ、その中に丸」
「中ってどこ?」
「どれぐらいの大きさなの」
「いっぺんに言われたらわからないよ」
お互いに完全にパニック状態です。冷静に、相手にどう伝えたら正確に
わかりやすく伝わるか、相手にどう質問したら自分の疑問がわかって
もらえるか、という態度が身についていないとできない作業です。子ども
たちは宇宙飛行士に必要な資質を「実感」によって理解してゆきます。
この後、閉鎖環境内で長期間に渡って自制心を保っていられるかどうか
テストするために制限時間内にジグソーパズルを解きます。
「できっこないよ」
「うまくはまんない。このピース、形がおかしいんじゃない」
簡単にあきらめたり、愚痴を言ったり、あわてて無理やりはめこもうと
したり……これでは、とても宇宙飛行士になれそうにありませんねえ。
最後は、宇宙探査車に見立てたラジコンをモニターを見ながら遠隔操作
する訓練でした。路面はでこぼこしていて、行く手に障害物も多数ある中
適切なルートを探しながらゴールを目指します。制限時間は3分。2回転倒
したら失格です。限られた範囲しか見えないモニターの映像を見て操作
するだけでも難しいのに、遠い星との通信により時差が生じることを想定
して、操作が1秒ずれるように設定してあります。このため、ブレーキを
かけるのが遅くなって障害物に激突したり、左右にハンドルをきるタイミング
がずれてうまく曲がれなかったりします。ここまで、すべての訓練で好成績
をおさめてきた子は、やはりここでも実力を発揮。見事、目的地に到達。
やりたい気持ちが空回りして、ここまでさんざんだった子も2度目のトライ
でなんとかゴール。思わず笑顔。
2時間半ぶっ続けで行った本格的訓練が終わりました。
「面白かった……」
単に楽しかっただけでなく、真剣に取り組んだゆえの疲労感と充実感が
にじみでた言葉でした。
宇宙飛行士になるには……
よく聞き、うまく伝える力。
簡単にあきらめない集中力。
ミスが許されない状況でしっかり確認する力。
時間との戦いでも落ち着いてパニックにならない力。
模擬訓練修了書を手にした子どもたちは、身体面とともに精神面での
タフさが宇宙飛行士に求められることを痛感しました。
さあ、次週は、この「体験」で得た知識を大いに活かして、「宇宙飛行士」
が主人公で、「地上の管制室」と「閉鎖空間の宇宙ステーション」を舞台
として繰り広げられるストーリーを作るという課題に挑戦します。果たして
どんなSFが出来上がるか……
RI
※TCS2009年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。
宇宙というわからないことだらけの広大な「空間」が、百億年以上の
長大な「時間」を経て形成されました。この「時空」の流れの中で「地球」
が生まれ、生命が誕生し、多くの「因縁」の果てに私たちの現在の暮らし
があります。と同時に、私たちは、過去の「因縁」にこだわるだけでなく
未来への大きな可能性をかけて、地球から宇宙へと飛び出してゆく時代を
迎えています。未踏の地を夢見る強い思いに駆られ、新たな歴史を切り
拓こうとする態度を育てることを目指すのも「時空因縁」という探究領域
での学びに課せられた大きな使命の1つです。
「宇宙」についての理科的なお勉強を目指すのではなく、未解明な部分
の多い領域に大胆な仮説を立てて挑んでゆく力を育ててゆくことが今回
の学びの主目的です。そこで、宇宙についてオリジナルのSFをみんな
で協力して創作し、紙芝居として発表するという「課題」を提示しました。
SFとは「サイエンス・フィクション」のことで、単なる作り話ではなく、科学
的な事実もふまえた物語だということを子どもたちに伝えます。これまで
宇宙に関するSF物語を読んだり、映画を見たりしたことがあるかどうか
尋ねてみると
「ドラえもんの宇宙旅行かな……」
「ドラゴンボール?」
「ウルトラマンでしょう」
宇宙を舞台にした物語というと、エイリアンや怪獣との戦い、宇宙人と
の遭遇、UFOの地球侵略というのが子どもたちのイメージで、SFと言わ
れてもピンと来ないようです。
「取材が必要だと思わない?」
「フィクション」を書くところまではこれまで読んだマンガや見たアニメで
なんとかなるものの「サイエンス」のテイストを物語に加えるには、宇宙
についての知識を得る必要があります。取材して得た知識を物語に反映
するというタスクを背負って、さまざまな場所を訪れることにしました。
12月始めに東京国際フォーラムで開かれた「宙博(そらはく)」に続き
お台場の日本科学未来館を訪れ、円形のドーム状のスクリーンに映し
出される立体映像による迫力満点の映画を見て、宇宙空間、太陽、惑星
銀河についてのイメージをふくらませました。
そして……今週のハイライトは、つくば宇宙センターでの宇宙飛行士訓練
体験でした。
「本物のロケットだ!すげえ」
敷地内に入り、50m以上の長さの国産ロケットを見ただけで大興奮。
JAXAの食堂で多くのJAXAの職員に囲まれての“最後の昼食”。
「さあ、これからは過酷な訓練が始まるぞ!ぜひ立派な宇宙飛行士に
なってくれ!」
子どもたちに檄を飛ばし、子どもたちの気分を盛り上げます。
インストラクターに引率され、訓練センター内に入り、すぐに訓練服に
着替えます。本当に訓練が行われている場だからこそ漂う独特の緊張感。
模擬訓練とは思えなくなってきます。
訓練は全部で3種類。最初は、船外活動訓練でした。宇宙船外で作業に
当たる宇宙飛行士、現場で宇宙飛行士をサポートし、コントロール室へ
映像を送るカメラマン。コントロールルームで作業指示を出す指揮者と
全体の流れを監督する司令官。4役に分かれて作業開始です。
「ラッチをはずし、マジックテープをはがして下さい」
「了解しました……完了しました」
「カメラマン、宇宙飛行士の足元を写してください」
「了解しました……完了しました」
「確認しました。訓練その2に移ります」
あらかじめ用意されたシナリオにしたがって作業が進んでいるのですが
なんとリアルな雰囲気!与えられた任務を懸命にこなしてゆく子どもたち
が本物の宇宙飛行士に見えました。
続いて、閉鎖環境適応訓練。まず、コミュニケーション訓練を行います。
宇宙ステーションに閉じ込められると地球との言葉による交信が命綱に
なります。映像なし、つまり「耳」だけで指示を的確に理解し、また宇宙
ステーションの状況も「口」だけで的確に伝えるコミュニケーション能力
が問われるのです。
「大きな正方形で、線は青」
地上の指令室にいる子が、自分が手にしている紙に書かれた模様を
マイクを通じて言葉だけで閉鎖環境内に閉じ込められている子どもたち
に伝えようとします。
「大きいってどれくらい」
「辺の長さはどれぐらい」
「ちゃんと聞いてよ、その中に丸」
「中ってどこ?」
「どれぐらいの大きさなの」
「いっぺんに言われたらわからないよ」
お互いに完全にパニック状態です。冷静に、相手にどう伝えたら正確に
わかりやすく伝わるか、相手にどう質問したら自分の疑問がわかって
もらえるか、という態度が身についていないとできない作業です。子ども
たちは宇宙飛行士に必要な資質を「実感」によって理解してゆきます。
この後、閉鎖環境内で長期間に渡って自制心を保っていられるかどうか
テストするために制限時間内にジグソーパズルを解きます。
「できっこないよ」
「うまくはまんない。このピース、形がおかしいんじゃない」
簡単にあきらめたり、愚痴を言ったり、あわてて無理やりはめこもうと
したり……これでは、とても宇宙飛行士になれそうにありませんねえ。
最後は、宇宙探査車に見立てたラジコンをモニターを見ながら遠隔操作
する訓練でした。路面はでこぼこしていて、行く手に障害物も多数ある中
適切なルートを探しながらゴールを目指します。制限時間は3分。2回転倒
したら失格です。限られた範囲しか見えないモニターの映像を見て操作
するだけでも難しいのに、遠い星との通信により時差が生じることを想定
して、操作が1秒ずれるように設定してあります。このため、ブレーキを
かけるのが遅くなって障害物に激突したり、左右にハンドルをきるタイミング
がずれてうまく曲がれなかったりします。ここまで、すべての訓練で好成績
をおさめてきた子は、やはりここでも実力を発揮。見事、目的地に到達。
やりたい気持ちが空回りして、ここまでさんざんだった子も2度目のトライ
でなんとかゴール。思わず笑顔。
2時間半ぶっ続けで行った本格的訓練が終わりました。
「面白かった……」
単に楽しかっただけでなく、真剣に取り組んだゆえの疲労感と充実感が
にじみでた言葉でした。
宇宙飛行士になるには……
よく聞き、うまく伝える力。
簡単にあきらめない集中力。
ミスが許されない状況でしっかり確認する力。
時間との戦いでも落ち着いてパニックにならない力。
模擬訓練修了書を手にした子どもたちは、身体面とともに精神面での
タフさが宇宙飛行士に求められることを痛感しました。
さあ、次週は、この「体験」で得た知識を大いに活かして、「宇宙飛行士」
が主人公で、「地上の管制室」と「閉鎖空間の宇宙ステーション」を舞台
として繰り広げられるストーリーを作るという課題に挑戦します。果たして
どんなSFが出来上がるか……
RI
※TCS2009年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。