[5年生]
先週は、今回のテーマ学習で目指す学習者像を示し、節電の必要性や原発の脅威、自然エネルギーについてただ知識を披瀝するだけの学びを目指さないことを明らかに
しました。そこで、今週は、ロストエナジーというミッションと“balanced”という学習者像
がどうつながるのか「追究」しました。
“balanced”な人ってどういう人なのかを考えていくヒントとして、2つのコンセプトを提示
しました。それは、今回の学びのターゲットとなる
“perspective”と“responsibility”
という2つのコンセプトです。コンセプトは物事の本質を明らかにしてゆくサーチライトの
ような働きをします。まさにそれは“本質に迫る問い”として発せられます。一つの見方
にとらわれず、“別の見方は?”“他の見方は?”“逆の見方は?”と問いを投げること
が“perspective”です。そして、“私たちはどうしたらいいの?何ができるの?”という
ように「他人事」にせず「わがこと」として問いを投げることが“responsibility”です。
さあ、2つのサーチライトを子どもたちに手渡したので……balance“d”シートを作って
みることにしました。balance“d”シートって何?……と思われることでしょうが、A4の
用紙を半分に折って、あるお題について、自分が最初に抱いた意見を左半分に書き、
その意見に“perspective”か“responsibility”という光を照らして浮かび上がった考え
を右側に書くというだけのことです。ただ、それをあえてbalance“d”シートと名づける
ことによって、今後、何か判断しなければならないとき、あっそう言えば……と思い浮か
ぶように「印象」づけたかったのです。
ある子が放射能と原発について調べるために持ってきた大手新聞社発行の週刊誌を
用いて、読者をひきつけるためにどんな見出しが表紙に書かれているかみんなで調べ
てみました。すると、放射能の恐怖、原発の危険性、自然エネルギーの可能性など
いくつかのジャンルに分けられました。そこで、子どもたちにあるジャンルについての
「見出し」を並べて見た後に、どんな「意見」を持ったかたずねました。
「放射能を浴びるとやがて病気になる」
もともと放射能の危険性について敏感で、マスコミ・政府の発表に強い疑念を抱いて
いた子が、すぐに「意見」を述べました。
「放射能を浴びるとガンになるんだよ」
「白血病にもなる」
一つの意見に連鎖して別の子からも追随するような意見が出ました。
まず、balance“d”シートの左半分に今出した意見を書き込みます。てんびんは一方に
大きく傾きました。さあ、いよいよ“perspective”というサーチライトによっててんびんの
balance をとる「意見」を自ら考えます。
「放射能を浴びたら必ず病気になると言えるのか?」
まずいちばん考えやすい「逆の見方」による意見が出てきました。しかし、ただ逆の考え
を持つだけでも、「放射能=病気」という先入観を打ち破り、冷静に、幅広い視野で判断
する思考回路を作動させることにつながります。
「放射能と放射線と放射性物質ってどう違うんだろう?」
子どもたちは、使われている言葉の「定義」が気になりました。すぐに調べてみると、
放射性物質から発せられる光線のようなものが放射線。アルファ線、ベータ線などと
いった種類があり、エックス線もその中のひとつ。そして、放射線を出す能力が放射能。
放射能を持った物質が放射性物質ということがわかります。
「じゃあ、放射線は身体をぬけちゃうけど、放射性物質が身体の中に入ったらずっと
あるってことかなあ」
「放射線が身体を抜けるのと、放射性物質が身体の中にあるのとどう違うんだろう?」
「どの放射線を浴びたか、どの放射性物質に触れたかでもきっと違うよね」
「身体の中にあるとずっと浴び続けちゃうんじゃない」
「でも量が少なければ、ずっと浴びても症状は出ないかも?」
一概に、「放射能=病気」というふうに考えて終わりではなく、“perspective”がゆさぶ
られ、本質に迫る問いがでてきました。
言葉の定義が整理されてくると、「量」の多少によって影響は違うのではないかという
「疑問」に子どもたちの関心は移ってゆきました。
「国の安全の基準ってどれぐらいの量なんだろう?」
「20シーベルトじゃない?」
「1ミリシーベルトだよ!」
テレビか新聞で耳にしたような気がする(?)「無責任な数値」が発せられますが……
「常に考える上でのポイントは、“perspective”!」
ということを子どもたちに「意識」するように改めて促します。放射能汚染マップを見た
とき「シーベルト」という単位が用いられていた……水道水汚染では「ベクレル」が用い
られている……なぜだ?……「シーベルト」は人が身体に受ける影響を表す単位だけど、
「ベクレル」は物質が発する放射能の強さを表す単位……そうか!そこに住んだら
どれだけ放射能の影響を人体が受けるかという情報を放射能汚染マップでは示して
くれた方がいいから「シーベルト」!でも水道水の場合はその水自体がどれだけの
放射能を発するか知りたいから「ベクレル」なんだ!
さらに、「単位」の意味だけでなく、「マイクロ」なのか「ミリ」なのか、何もついていない
のかでは、まったく大きさが違うので要注意!だから、0.0…という数だから低い、2.1…
といった数だと高いというふうに短絡的に多少を判断してはいけない。そして、「単位」
の後に「毎時」がついていることにも気をつけなければならない……もし0.2マイクロシー
ベルトと書いてあってもそれが「毎時」ならば、そこに1年住めば、24時間×365=8760
時間なので、0.2×8760=1752マイクロシーベルト、つまり約1.8“ミリ”シーベルトの
放射能を浴びることになってしまうのです。
さあ、「数値」の「正確さ」がわかればそれでいいのか……さらなる“perspective”の
ゆさぶりです。マップと言っても、文部科学省のものもあれば、ドイツ気象庁のものも
あります。資料の出所とその「信憑性」を判断することが難しい……さらに、かりにその
データが「正しかった」としても、今度は、被曝によって病気を発症する目安とされている
放射線量の値をどんな調査に基づき、どう算出したのかがわからないと「安全」か「危険」
かはわからない……行けども行けどもわからないことだらけ。
「何が正しいかわからないよ!……」
子どもたちのつぶやきに対して、
「正しいかどうかが問題なのかな?君たちが最初から主張しているように、どの情報も
都合のいいように発せられているんじゃないの?」
「正しいかどうか」を追い求めたところで、対処しようがない……ということにようやく
子どもたちは気づき始めました。
(でも、どうしたらいいかわからない……)
このままでは、ますます「隘路」に入り込むのみです。さあ、どうするか?そのヒントが、
もう一つのターゲット・コンセプト“responsibility”にありそうです。次週は、私たちの
これからの生き方をどうするかという「観点」でネルギー問題を考えます。
RI
※TCS2011年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。