【探究領域】万象究理
【セントラルアイディア】観測は予測の礎となる。
<テーマ学習> 〜レポート
空を見る。今回のテーマ学習はここから始まりました。
クラスでちょっとしたトラブルがあったお昼休み明け、なんとなく雰囲気が重かった16名。全員で近くのホームセンターの屋上へ移動。
15分間空をじっくりみてみよう。
まだ子どもたちにはテーマ学習も探究領域も伝えていません。(なんとなく察する子はいましたが)
見れば見るほど見えてくる、石ころから自然の不思議が見えてくる
など、「見えてくる」ことを体感してきたキッズたちは、まず空をじっくり見てみます。
「これは「晴れ」だよね、雲の量が少ないし。」
「全体の8割未満だっけ?」→「え、8割ってどれくらい?」
みん理の記憶を思い出して、天気を考えている子もいました。
「雲ってさ、種類あったよね」「あの雲はふわふわしてる」
「あっちの方に雲がいっぱいある」「ほんとだ!でっかい!」
キッズからは「あっち、こっち」という表現が飛び交い始めました。
「え、あっちってどっち?」と聞くと「ほら、あっちだよ!」と指差し。「え、どっちかよくわかんないな、もうちょっと詳しく教えて」としつこく返すと「あの右の方!」「右?どれくらい右?」
指し示す子が多く、出てきても右左、上、下、もうちょっと、、、
なかなか方角を使える子はいないようです。方角について突っ込んでみても、そもそも北をすぐに指せる子が半分くらい、、、
その後スクールに戻って雲の観察結果を書いてみたところ、雲の形や量について言及する子は多かったのですが、やはり方角については使いこなす、には至っていない子が多い印象でした。
観測は予測の礎となる。
5、6年生ともなると、それぞれの単語の意味は概ね理解できています。
モヤモヤしてほしいポイントはその中身。観測、予測。
正確に、詳しく、観測するにはどんな情報、アンテナが必要なのか
そこから予測に繋げるにはどんな知識、思考が必要なのか。
そのヒントを得るため、気象の達人「猪熊隆之」さんに会いに長野県へ向かうことにしました。
山岳気象予報士の猪熊さん。挨拶後には早速、空の話、雲の話が始まりました。車山を登りながら、空を、雲をみていきます。
そんな猪熊さんがまず取り出したのが「方位磁石」。どっちが北で、いま私たちがどっちに向かっていくのか、確認をしました。
キッズに「ところでどっちが北なの?」と聞いてみると「…..あっち?(東を指差しながら)」それを見ていたキッズが「え、太陽があるから違うんじゃない?」と一言。お、よく見ている!と感心しかけたら、つづけて「だって太陽って西からのぼるじゃん、あっちが西だよ」
、、、これが、今のキッズの状態。方角はあべこべの様子。
猪熊さんの雲の説明。
まだまだ知らない言葉が多く、キッズの頭には?が見えますがくらいついています。
山を登りながらも、空の様子は刻一刻と変化します。
真ん中に見える小さな「わた雲」。これはできたてのわた雲で、下からの上昇気流があることを教えてくれています。これが成長してくると、天気が変わるかもしれません。
と話を聞くうちに、わた雲は流されて消えていきました。こうした場合は天気は大きく変わらないと言えるらしい。
↑登山開始時の北の空
↑下山時の北の空
わた雲は出ていますが成長しておらず、うす雲は朝からあまり広がっていないので、この後もあまり天気は変わらなそう。とのこと。
時間変化と雲を追っていくことで空の様子がわかる。雲は空の気持ちを伝えてくれている。猪熊さんはキッズに対してずっと伝えてくれました。
車山山頂は強風!16、17m/sほどの風とのこと。台風並ですね。
お昼ご飯を食べながらも四方の雲を観察。
八ヶ岳上空には大きなレンズ雲が!
これは山で強い風が吹いているサインとのこと。確かに、車山でもものすごい風です。。。!
中央アルプス方面にも吊るし雲、そして平べったいわた雲。
成長したり、消えたり。変化が続きます。
山頂が強風だったこともあり、少し早めに下山し、茅野市の公園へと移動。そこで雲を見ながら猪熊さんとお話&質問!
キッズからは今の時点での疑問が出てきます。やはり気になるのは雲の形となまえ。それぞれに貸与しているスクール携帯で撮影した写真を見せながら、これは何か?という質問が多く出る中、猪熊さんは「これは〇〇だねぇ。あ、これはよく撮れてますね、〇〇です」と即答。達人の凄さにキッズも盛り上がりました。
たっぷり雲を堪能した車山への外出。
大量の情報に頭がパンクしそうになりながらも帰路に着きました。
【雲の観測と記録】
今回のテーマ学習では、個々にTCS携帯を貸与し、空の様子を撮影・記録していきます。
観点は2つ
・定点観測:こちらは自分が継続して撮影をしやすいポイントを探し、毎日撮影・記録していくことで、自分の周りからみえる天気の兆候を探っていきます。
・美しい、面白い雲の記録:こちらは、自分が「美しい」「面白い」など感じた雲を記録していきます。空への興味関心を広げ、さらに気になった雲を調べていき、理解を深めていきます。
携帯で撮影したものはGoogleアカウントで連携され、自分のパソコンでも確認することができます。その写真をスライドに転記していき、記録を残していきます。
テーマの時間内でお互いに空の写真を見せ合い、どんな雲なのか、どんな空の様子がわかるのか、コメントし合うことで理解を深めていきました。
太陽の位置関係などから、少しずつ方角の理解も深まってきています。
【空の観測】
インプットしながら、観測も重ねていきます。
とらすとベースフリースクール(TCS第2校、中野、以下「とらべ」)では、屋上に上がることができるので、空一面を観測するにはもってこいの場所です。
場所をお借りして、じっくりと空の観測。それぞれにコンパスを配布し、雲の流れや位置関係を見て、判断していきます。
風速計を使って風の計測も行いました。
風はどちらからくる?ここでも方角がポイントとなります。常に、今どこを見ているのかを意識する必要があり、少しずつ子どもたちの感度も上がってきています。
【理科実験】
雲は上昇気流でできる、など知識は得たものの、できる様子を観察してみたい。というところで、雲を作ることに挑戦。
ペットボトルにアルコール(本来は水ですが、蒸発しやすさを優先しました)を加え、炭酸キープのキャップで加圧。そこから一気に減圧することで雲を発生させます。
雲ができたボトルを横にしていたチームは、発生した雲がボトルの口から下に落ちていくことを発見。
猪熊さんが言っていた、雲は黙っていると落ちてくるのだけど、上昇気流がそれを支えている、ということがこの実験を通じて理解できました。実は、雲は空気より重い。。。
次に、暖かい水と冷たい水が混じるとどうなるか、温度差によって生じる流れを確認しました。
冷たい水は下へと潜り込み、暖かい水は上へと上がっていく。
その境目が天気図では前線として現れます。「みん理」でも触れた内容ですが、改めて確認することができました。
その後は実際に暖かい場所と冷たい場所を作って、空気の流れも同じように動きが起きることを確認。ぼんやりとでも、空気の流れ、風のできる仕組みを感じとりました。
【そして観測、予測】
この日の観測は「くもり空」
黒い雲が多く、さらに流れもとても早い。タイムラプスで撮影してみると、その流れがさらによくわかります。
暗い雲だから雨になる?流れが早いから全部流れて晴れになる?それともこのまま続く?
曇り空ってどうやって読み解けばいいのだろう。いつまで続くと言えるのだろう。切れ目がないと、終わりも見えない?
困ってしまいました。
そこで、新しい道具「天気図」を使ってみます。
高って文字は?高気圧じゃない?じゃあ低は低気圧か!
この線は何?Newtonに載ってるかも。前線だって。
天気図の見方を確認しながら、意味も抑えていきます。
この日は高気圧が近い気がするけど、なんで曇りなんだろう。高気圧だから晴れ、ってことでもないのかな?
東京は低気圧と高気圧の中間じゃない?
中間は曇りってこと?雲の変化はこれでわかるのかな。
資料などを使いながら、少しずつ読み解き、進めていくもののまた新しい疑問やモヤモヤとぶつかります。そうして少しずつ見える範囲が広がり、視点が増えていくことを実感しているところ。
【猪熊さんのオンライン授業】
そんな中、猪熊さんとオンラインでつながる機会をもらいました。
子どもたちの予測を猪熊さんに聞いていただき、それに対して猪熊さんからのフィードバック。どう読み解けばよかったのか、どう説明できるのかをじっくりと聞きました。
前回の外出時から様々な雲に触れてきたキッズ。猪熊さんの説明への食いつき具合が違います。
自分たちも少しずつ予測できるようになってきたからこそわかる、猪熊さんの解説の凄さ!理解しやすさ!
終わってすぐに「もう一回観測したい」と声が上がりました。
【そして、観測と予測】
近所の島忠の屋上、とらべの屋上と、また足を運び、観測。
2回とも曇り空でしたが、これこそ学びを活かすチャンス!この曇りが続くのか、悪化するのか、良くなっていくのか。
曇りの観測ポイントを抑えつつ、じっくりと流れをみていきます。
今回は濃いところと薄いところがある。朝は層積雲だった。うね雲ってことね。そこから隙間なくなってきたよね。じゃあ曇り?いや、悪化するかも。
風向はどっち?東が多いかも。でも雲は西から流れてきてる!西の空、結構明るいとこ多めだよね。じゃあ晴れ?まだ黒いところあるから、曇りが続くんじゃない?
キッズから飛び出す言葉からも、彼らの見える世界がどんどん変わっていることを感じました。
運動会が迫る中、運動会当日の午前の予測にもチャレンジ!
果たして結果は、、、?
【プレゼンに向けて】
これまで繰り返してきた観測と予測。それらを振り返りながら、自分たちがどのように空を読み取ってきたのか、そしてどのような学びがあったのかを盛り込んでいくことに挑戦します。インプット、あるいは使えるようになって満足ではなく、それを他者へ伝えることも大きな挑戦であります。
彼らがどのように聴衆に向けてプレゼンを考えて組み立てていくのか、お楽しみに。
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【当日の朝】
朝の会終了後、これまではプレゼンの最終練習などが行われていましたが、今回は「空の観測」、そしてプレゼンに向けてそれぞれの予測を立てました。
下の写真は、朝の会を終えて早速外へ向かうキッズたち。
観点望希シート、天気図を使っていく上で、どちらから雲が流れてきているかがすぐにキッズ間で声が上がり、そこから天候がどちらか変わるかを見出していきました。
「乱層雲だよね」「ちょっと明るいところあるね」とさまざまな観点が飛び交う様子から、彼らの感度がかなり上がってきているのを感じました。キッズの予測を整理し、プレゼンの流れをざっと確認して、本番へと向かいます。
【プレゼンテーションの様子】
【ふりかえり】
プレゼンテーションを終えてのふりかえり。
プレゼンテーションについてはこれまでのプレゼンのような練習や話すことを決めるというプロセスが少なく、その場で答えるという形式だったことから、斬新だった、緊張感があったという声が上がりました。
一方で進行を担当したキッズからは、誰に当てるか、どういう答えが返ってきそうかを考えながら当てれた、自分の中でも考えながら進めてみたというチャレンジしたことも出てきました。
プレゼンの形式がこれまでのテーマ学習の中で繰り返しやってきた予測とその根拠を話していく形だったため、どういう流れになるかはそれぞれが認識していたものの、自分の予測をいかに「正しそう」と感じてもらえるか、「説得力がある」と思ってもらえるかで試行錯誤した様子も見られました。
全国に向けて、単にデータを伝えるだけでなく、わかりやすく伝える気象予報士の凄さを垣間見ているようでした。
伝える、という過程を経ることで、自分の観測記録や予測が主観的になりすぎていないか、事実を元に語ることができているかということを確認していくことができました。「え、俺の説明じゃわからなかった?」と素直に聞き返しながら、お互いに意見を伝え合う場面はありつつ、「それ俺言いたかったんだけど、本当にそれ最初から考えてたの?」など言いたいことや食い違いなどで揉めたりする場面もまだまだ見られます。お互いが気持ちよく話し合う、伝え合うための言い方、場づくりはまだまだ課題が見えました。
テーマ学習自体をふりかえると、セントラルアイディアの「観測は予測の礎となる。」に立ち戻ります。この6週間、それぞれが携帯を貸与され、さまざまな場面で観測、記録を繰り返してきました。
「同じような雲を見ると、天気も同じになりそうって見えてきた」
「情報収集すると、だんだん当たるようになってきた。気にしてなかったけど、見てたら気付ける」
など観測を続けることで見えてきたこと、見えるようになってきたものが出てきた一方で
「空を見るだけではわからないことも見えてきた。天気図とかもっと他の情報が欲しい」
「でもそれも気象庁とかの観測だよね」
「いろんな視点のデータが欲しい、あればもっと精度あがりそう」
と、観測してきたからこそ「それだけではわからない」という視点も出てきました。天気図を使うことで見えてくることもあれば、天気図だけだは断定できないことももちろんあります。
何を知りたいのか、によっても欲しいデータは変わってくるのですが、そもそも何を見たら何がわかるのかは、実際に何度も見て、触っていくからこそ解像度が上がっていくものです。
クラスの友達も4、5年観測を続けてきた対象だからこそ、こんなこと思っていそう、言いそうなどわかってくる。という話も出てきました。
観測し続けることは着実に礎となっていくのでしょう。
天気を切り口にどっぷりと気象の観測に浸かった6週間。
今回のテーマを足掛けに、つぎはどんなものを観測し予測していってくれるのか、楽しみであります。
KO
(参考) TCSテーマ学習について、以下よりご覧ください。
・2025年度 年間プログラム(PDF)運用版
・テーマ学習一覧表(実施内容)