特定非営利活動法人 東京コミュニティスクール

東京コミュニティスクール

03-5989-1869

school@tokyocs.org

〒164-0001

東京都中野区中野1-62-10

東京コミュニティスクール

「似て非なる」5年6年生 テーマ学習 〜レポート

 

【探究領域】自主自律
【セントラルアイディア】私たちは軌跡と奇跡で生かされている。

<テーマ学習> 〜レポート

これまでに学んできた「自主自律」の探究領域のテーマ学習を思い出しながら、自主自律という領域についてのイメージを聞いていくことから始めました。1年生時の「I am Special, YOU are Special」では自分だけでなく他の人の特徴や持ち味に触れていくことから始めました。さまざまなテーマ学習を通じて学んできた自分自身と他者について、今はどんな認識なのでしょうか?

・変わらないところも多いと思う、気持ちとか

・でも、当時なんでそんなことしてたんだろうという部分はある

・もちろん体は大きくなってる、まだ大きくなるけど

・ある程度お互いのことわかったかな、喧嘩とかしても、こういうこというよねとかはわかる

5-6年生ともなるとクラスとして話し合いする機会も多く、何度も対話する中で、他者との関わり方を少しずつ身につけてきているような発言が多く出ました。人と人が関わり合うから「人間」?なのでしょうか。

自分自身からちょっと抽象度を上げて、人間とした場合、どのようなものなのか、探ってみました。

哺乳類など生物学的な話もでてきつつ、他の動物との違いとしては感情がある、テクノロジーがある、知能が高い、けど力は弱い、しゃべるなどの特徴が上がってきました。

でも、この特徴はどのようにして獲得したのでしょうか。

子ども達からは「進化」という言葉が出てきました。プランクトンからは始まったという情報は出たものの、そこからなんやかんやあって今の人間になった?というちょっと曖昧な情報。でもプランクトンから人間にはどうやって繋がっていくのでしょう。プランクトンから人間になった場面は誰もみたことがありません。

 

今回のセントラルアイディアは「私たちは軌跡と奇跡で生かされている。」

生かされている?といった疑問の声も上がりました。それぞれ思うところがあるようなので、グループに分かれてセントラルアイディアについて考えを話し合ってみました。

       

進化、奇跡、軌跡、わかるようなわからないようなことが出ててきました。そこで自ら情報を集めることに挑んでいきます。インターネットで調べるのが好きな子はすぐに情報を調べてみようとしますが、現地、現物現人を大切にすることを伝えると、実際に行ってみようという話になりました。行き先は国立科学博物館に決定。

そこで何を知りたいのか、当日見て回るグループに分かれて、外出の計画を立てることにしました。

 

自主自律のこのテーマ、自分でアンテナを立てて、ぐるぐる回していくことに挑戦することも大切にしていきたいところです。

【国立科学博物館】

計画通り、3グループに分かれて博物館を見学、スタッフは引率しますが、それぞれがどのように情報を手に入れていくのかを見守りつつ、カメラマンに徹しました。

   

人類の歴史だけでなく、生命そもそもの歴史に関する資料がずらり。

細菌や微生物のような生き物から、さまざまな分岐(変異)をおこして少しずつ変わってきたことが見えてきます。

人だけに焦点を当てても、そうした変化が起きているようです。同じ人類でも、少しずつ違う形に変化している。

「日本人と他の国の人くらいの違いじゃない?」
「新人くらいになると、その辺歩いててもわからないよね」

よく見ると違いはあれど、確かに今地球上に存在するヒトも地方によって顔貌の特徴があります。その違いと種としての違いを決めるものは一体何なのでしょうか。

モヤモヤしながら資料を読んでいきました。

 

、、、この生物も進化したら私たちになる可能性があるってこと?

何度見ても、何分見ても、私たちと「似て」いると思えず「非なるもの」と感じてしまいます。進化したと一言に言われても納得はできません。

【国立科学博物館ふりかえり】

 

それぞれのグループで、テーマ外出のふりかえりを行いました。テーマ外出前に出し合った疑問やモヤモヤについてリサーチできたこと、国立科学博物館を見てきたことで新たに見えてきた発見、疑問、モヤモヤを出し合っていきます。

進化という観点においては、

・700万年前にチンパンジーとの分岐があったこと
・300万年前に猿人の中でも分岐があり、原人となるころには他の猿人は絶滅していたこと 
・直立二足歩行になったそもそもの理由は不明
・脳みそが大きい種もいたけど、それでも滅んでいる種があった
・人間に毛がないのは、暖かいところでも寒いところでも適応するため

などが上がってきました。ホモ・サピエンスという言葉を聞いたことがある子が多かったものの、それも過去の人だと思っていたようです。私たちが、実はホモ・サピエンス。その観点から一気に身近に感じられてきた子もいたようです。

でも、私たち以外のホモ属は絶滅してしまった。黒人や白人といった違いがあれど、大きく見るとホモ・サピエンスとして一緒の種だったのです。

けれど、大昔に分岐した毛のある猿やチンパンジーなどが生き残っているのも事実。一体何が生き残る上で必要だったのでしょうか。

そうした「進化」の観点でもう少し探っていくことにしました。



話がまとまったら、チームを変えて分かったことの共有をして、お互いどのような観点で科学館を見てきたのか、違う視点を見ていきました。

また、子ども達と改めて確認したのは、これまでに出てきたような「発見、疑問、モヤモヤ」のタネを大切にしてほしいということ。話し合いをしていて、彼らからいい意見はいっぱい出てくるのですが、そこをもう一歩踏み出して調べたり、考えたりしていく姿勢を大切にしつつ、資料を見ていきます。

ーーー生命史・人類史ーーー

 

動画からイメージを掴みつつ、文献を読み込んでいきました。

生命誕生の正確な理由は解明されていませんが、小さな有機物が少しずつ増えていき、それが増える過程で植物、動物が生まれてきました。

人類が誕生するまでには何度も大きな絶滅を経てきたことを知り、大型の強い生き物だから生き残れる、たくさん増えたから生き残れるのではないことが少しずつ見えてきました。

人類の歴史においても、そうした偶然の重なりが続いてきました。二足歩行になったことがよかったのではなく、二足歩行になったタイミングで偶然地殻変動と気候変動が発生したから、二足歩行が有利になったこと。単体での力が弱かったから共同して食料を得ていく中で偶然骨の中から骨髄を食べれるようになり、残った骨は鋭利な道具になることを見つけられたこと(それを実現するために二足歩行で両手が空いていたこと)などなど。体も脳もそうした変化の中で生き残ることができてきたようです。

なるべくしてなったのではなく、偶然そのときその状況に適応できた。これがホモ・サピエンスにつながったのです。

 

資料を見ての振り返りではさらに踏み込んだ疑問やモヤモヤが出てきました。ホモ・サピエンスとなる上で、宗教のようなものが生まれ、死後について考えることもできてきた。今の人類では当たり前ですが、野生の中で生きるか死ぬかの生活を営んでいた人類には至らなかった思考回路なのでしょう。

歴史的な資料も探っていくと面白くてキリがないのですが、そんな奇跡とも呼べる軌跡を辿ってきた私たちの体にもフォーカスしてみました。

体の組織を作っている最小単位である「細胞」とその中にある「DNA」の観察です。

【細胞の観察】

今回は植物と動物の細胞を見比べることに挑戦し、植物はタマネギ、動物は私たちヒトの細胞を観察しました。

顕微鏡の見えているものをカメラで撮影しました。植物の細胞はすぐにピントもあって、観察もじっくりできましたが、ヒトの細胞は「見つからない!」という意見も。でもよく見ると、細かい点々があります。実は、人の細胞はタマネギの細胞よりもかなり小さいことがわかりました。

そして、その細胞の中には何やら丸いも物体があります。これが、細胞の核。形は少し違えど、生き物は細胞とそしてその中に核によって形作られていることが少し実感できてきたようです。

【DNAの抽出】

DNAはさらにその細胞の中にある、私たちの設計書。全てを繋ぐと2mになるといった情報は資料から学びましたが、実際にどのようになっているのか、操作をしてみました。

まずは細胞膜、細胞壁を壊して核を出すためにすり潰し、食塩水などを使い核膜を壊した後に濾過、濾液からエタノールへと抽出しました。

今回はバナナとブロッコリーをで別れて実施しましたが、ブロッコリーチームは細胞を壊しきれずに収率が低くなってしまいました。

けれど、染色液を垂らすとしっかり染まり、DNA抽出を確認しました。

 

分解酵素が働くため、かなり急足での処理だったこともあり、ブロッコリーチームは苦戦したようです。

もちろん構造までは見ることができませんが、私たちの体の中にも、こうした要素が入っていて、それが体の仕組みの設計図になっている、そんな不思議を味わった実験でした。

私たちの情報が詰まったこのDNAは一体どのように受け継がれていくのでしょうか?

 

さて、そんなDNAや遺伝が引き起こす「進化」という概念はどのようにして形作られたのでしょうか。

多くの子が名前は知っている存在である「ダーウィン」が記した「種の起源」について、絵本をもとに考えていきました。

ーーー

余談ですが、この絵本の翻訳を担当している福岡先生は生物学において読みやすく面白い本を多く書かれている方で、私も以前何冊か読んだことがあります。「動的平衡」や「生物と無生物のあいだ」は個人的にとても面白かったので、興味がある方はぜひ。キッズには高校生くらいになってから読むといいかな、と考えておすすめはしていません。

ーーー

話を戻して、こちらの絵本は綺麗なイラストともに、なぜダーウィンが進化という発想を構築できたのかを個体差、生存競争という観点に触れながら学んでいきました。

体調不良で休んでいた子もいたので、全体で学んだことを都度確認しながら、なぜ進化が起きてきたのか、遺伝という観点から何が言えるのかを整理していくことができました。

 

さらに、遺伝のしくみについて資料を読み込みながら、性別や血液型の遺伝についても触れていきました。

6年生は算数で場合の数を学んでいたので、うまく補足してもらいながら、いったいどれくらいのパターンがあるのかを書き出して整理していきました。

自分の血液型を解らない子も多かったのですが、親の血液型から自分の血液型を特定できたり、50%の確率でこれかこれ!と絞ることができたりしました。血液型に関するDNAは父と母から1つずつもらっていること、2つが混じったときに出やすい性質(顕性)と出にくい性質(潜性)がある、といったことにも少しだけ触れながら、遺伝の面白さを少しずつ感じたようです。

天皇は男の子を後継に選ぶことが多かったが、遺伝子的には正しい選択である、といった話にも発展。DNAや遺伝情報についての解析は日進月歩。日々新しい情報が出てくる正しく「解き明かされつつある研究分野」です。

遺伝やDNAというキーワードで検索すると、遺伝子の不思議がどんどん出てくることを一緒に検索しながら楽しみました。

新しいことが出てくる分野だからこそ、古い文献では情報が古いままのことが多くあります。そこで、近年の研究も取り上げた映像資料を見ながら、知識を少し整理しました。

 

動画を見た上で、発見、疑問、モヤモヤをポストイットに書き出して整理しました。

 

前回は話し合いながら、それぞれの意見を出し合っていきましたが、今回は個々で記入した上で、読み合って気になったことをお互いに質問したりコメントしたりして振り返っていきました。

違うタイプのふりかえりを経て、ふりかえり方によって内容への感触の違いも感じられたようです。

DNAは親から受け継いで決まっているもの、というイメージが強かったのですが、環境や生活習慣を変えることで変化することもできることがわかってきました。

・DNAスイッチはONやOFFにできる

・それによって病気を防ぐこともできる

・祖父や父の代での生活習慣が子供のDNAスイッチに影響する

など確定的ではなくむしろ流動的にDNAは変化していく。これは私たちの運命は自分で変えられる可能性があることを示唆しているようです。

とはいえ、どのタイミングでスイッチのON/OFFが切り替わるのか、どうやって引き起こせるのかはまだまだ研究中。変えられるのか変えられないのかモヤモヤしてしまうところですが、希望はあることは間違いないはずです。

   

「氏より育ち」はほんとう?

筆写道でみんなが取り組んだことのある諺「氏より育ち」これはどうなのでしょうか。ことわざとしては、どこに生まれたかというよりもどうやって育ったかの方が大事という意味ですが、遺伝情報で決まっていることが多いのも確か。

そうこうしていると「蛙の子は蛙」という諺もあれば「鳶が鷹を生む」という諺もあります。昔の人が言いたいこともわかる一方で、そうとは言えない事象もある。そう信じたいという気持ちもありますね。

ここまで学んできた子ども達だからこそ、「部分的にはそうでしょ」「そう言いたいこともわかる」といった発言が出てきていました。

さて、私たちまで続いてきた軌跡や、そこで起きてきた奇跡をなぞってきた5、6年生。ここからはその軌跡と奇跡をふりかえって、「We are the World」の歌詞にまとめ上げていきます。

  

まずは歌詞の方針となるコンセプトを決める。

大まかな流れも決めたところで、それに合わせた歌詞を作成していきます。いきなり一人では難しい作業なので。叩き台となるものをグループで作っていき、そこから個人作業をしたものを持ち寄るということにしました。

以下、それぞれのグループの話し合いの様子です。

とりあえず音に合わせて言葉を紡いでみたり、出したい言葉を書き出して行ったり、方法は様々ですがコンセプトと流れは見えているので、それに向けた意見が飛び交っていました。

 

難しいのは持ち寄った歌詞をもとにしながら、1つの歌詞に練り込んでいくこと。

良いフレーズがあっていても、まとまりがなくなっては意味がない。

さらに、希望的な歌になりすぎると、ただただ妄想になってしまう。

自分たちがどうやってできたのか、どんな奇跡があったのかをなぞりながら、自分たちの活かし方を模索していきます。

円になって、お互いが意見を出し合っていきます。時間も迫る中で、歌詞に思いを練り込もうと熱が入ります。

彼らの思いと学びの軌跡が詰まった歌を、プレゼンでお楽しみください。

 

ーーープレゼン後記ーーー

【歌詞で伝えたいこと】

歌詞作成に当たって、まずは歌詞に入れて伝えたいことをそれぞれが語っていきました。

Sさん:自分が今生きていることの奇跡さ、すごさを学んだから、そのすごさを伝えたい。

Yくん:Sさんのこともそうだし、DNAのスイッチがオンになるかオフになるかで運命を変えられることを伝えたい。

Tさん:人類が生きていく上での奇跡と軌跡があったからこそスペシャルな人間がいるんだよってことを伝えたい。

Sくん:進化って偶然だから、今ホモサピエンスじゃない可能性もあった、ピンチがあってそれで進化してきたから今の自分たちがあること、ピンチはチャンス。

Rくん:今の人間は安全で、この状況にしてくれた軌跡とこういう人に生まれて来れた奇跡を伝えたい

Aさん:これまでの軌跡がどんな軌跡だったのか、どんなアメージングなことが起こってここまできたのかを伝えたい

Dくん:今のホモサピエンスが生き残っているのも偶然だし、自分たちが生まれてきたことも偶然。自分たちが生まれてきたのは努力とかでもあるけど、運っていうのが大きいよねと伝えたい。ホモサピエンスは強運の持ち主だ

Hくん:トレジャーDNAとか自分たちは今後も変われるっていうことを話したい。未来に繋げるっていうメッセージも入れたい

Mさん:今までやったことと、今後できることをストーリーにして伝えたい。人間のすごいところも話したらいいと思う

Lさん:トレジャーDNAが可能性のDNAだってことを伝えたい

Yさん:みんなが言っていることももちろんだし、そうした歴史の流れを伝えたい

Sさん:運命とか奇跡とで私たちは生きているから、今までの出来事を話した方がいいと思う

Hさん:昔の人とかが物とかを作ってくれたおかげで、今生きていられる。人間の技術を伝えたい

Kさん:人間の中にどういう奇跡と軌跡があったか、これからの可能性も伝えたい。専門用語を入れたらわからなくなっちゃうから、誰にでも伝わる歌詞にしたい

これらの意見をふまえて、

人間の起源と進化→今の自分たちの奇跡、すごさ→ここからの可能性

という流れで歌詞を作っていくことにしました。

まずは個人で作成。(作成した物はチャイルドノートの方に添付します)

その後は上記の流れで制作を進め、プレゼンに挑みました。

【歌詞】
 


【プレゼンテーション】
 

【ふりかえり】

ふりかえりに入る前から、うな垂れた様子で、元気がない5、6年生。

史上最悪のプレゼンだったと思う
みてくれた後輩や保護者に申し訳ないと思った
直前になって頭が真っ白になった

と言った声が上がりましたが、まずはそんな思いを一旦胸に秘めて、客観的にプレゼンを見てふりかえりをしてみることにしました。

他の学年には書いている「リフレクションシート」を自分たちで書きながら、プレゼンを見てみます。

(未提出のキッズもいます、提出した際に追記します)

 

自分たちのプレゼンなだけに辛辣な意見も多くみられますが、逆にこれらの観点がプレゼンに向けて足りなかったということでもあります。

もちろん、プレゼンは1回しかないもので、もう一度はありません。

ただ、今回の「歌」に関しては演目としてフェスティバルで行うことができるかも?と声をかけてみると

「やれるんだったらもう一回チャレンジしたい」

と声が上がりました。保護者の方からのリフレクションシートにも「フェスタでもみたい」とあり、「やろう!」とみんなの意志が固まりました。

もう一度歌詞のパートを見直し、みんなで歌うところを盛り込みながら、歌の練習に入ります。

今回はまっつんやほーりーという(おのけんより圧倒的に)歌に対してフィードバックを出せる方々に協力いただき、昼休みや放課後の時間を使って磨きました。

フェスティバルは両日演目として出ることになり、その間も練習を挟みながら本番へ向かいました。

彼らのリベンジを、ご覧ください。

   

【フェスティバル1日目】【フェスティバル2日目】

リベンジをおえて、キッズからはほっと笑顔が溢れました。

フェスタの業務に追われて忙しい中でしたが、それでも練習を行い、直前まで磨いてきた5、6年生。まさにレジリエンスを発揮して取り組めたフェスティバルだったと思います。

もう一度やれてよかった。その言葉が彼らの達成感を物語っています。

フェスティバルなど、一人では成し遂げられないことも、仲間と協力し、苦手なことは補い合うことで力を発揮することができます。

今回のテーマを通じてそれを感じ取った5、6年生が、ここからどんなハーモニーを発揮していってくれるのか楽しみです。

KO


(参考) TCSテーマ学習について、以下よりご覧ください。
2023年度 年間プログラム(PDF)運用版
テーマ学習一覧表(実施内容)

 

Comments are closed.
アーカイブ