タイトル:日本のなかの世界
探究領域:時空因縁
セントラルアイディア: 私たちは多様性の中で生きている
[5・6年生]
TCSのある場所は中野。中野駅の辺りには外国人観光客とおぼしき方たちがたくさん歩いています。中野と言えばブロードウェイ。ブロードウェイと言えば秋葉原よりもマニアックで本格的なサブカルの聖地として世界的に知れ渡っています。
世界の人たちとアクセスするために、わざわざ外国に行かなくても、ネットに頼らなくても、自分の身のまわりを歩けばよい。そうすればリアルな生きた声を知ることができるのです。そこで今回のテーマ学習では、街にどんどん飛び出していって、実際にインタビューし、異文化を実感し、また、異文化を鏡とした自文化について知ります。
いきなり「異文化」と強調しましたが、セントラルアイデアは「多様性」です。「多様性」と「異文化」がどうつながっているか……それを知るために、まず、子どもたちに
多様性
からイメージすることを挙げてもらいました。
探究領域は「時空因縁」なので、私たちの歴史や場地理的場所と「多様性」とのつながりだとすぐに子どもたちはピンと来たようでした。それに今まで「共存共生」では、在来種に外来種という「異文化」が入ってきて、強い外来種が多様な在来種を蹴散らしてしまうことがあるということを学びました。そして「社会寄与」では、民主主義や人権の学びにおいて個人の意見・考えが認められることを学びました。それとは異なる「多様性」と言えば「場所による文化の違い」ということがすぐに出てきます。
「異なる文化があるということは、その前提にまず自分たちの文化というものがあるんだよね」
とたずねます。すると……
「やっぱ寿司は日本。でもステーキは違うね」
「折り紙は日本文化だよ」「筆は日本で、ペンは外国から入ってきたものだよな」
ぽんぽん出てきます。しかし……
「筆って中国から来たんじゃないの」
とある子が疑念を抱きます。
「寿司は日本かもしれないけど、稲作は弥生時代に海外からきたって社会で習ったよ」
今は「自文化」に見えるものも、もともとは「異文化」からの渡来品。しかし、いまやすっかりなじんでしまった。
「漢字ってさ、中国の字なのに当たり前に日本語になっている」
まったくその通り。こう考えてくると、これは異なる文化のもの、これは自文化のものという風に、簡単に線は引けそうにないことがわかりました。そう分けるよりも「日本になじんで日本らしくなったもの」と考えた方がよさそうだなということが見えてきたのです。
「ラーメンは、もともとは辛い麺って意味だったのに、今のようなラーメンになっていったんだよね。だから中国には『日本ラーメン』っていうのがある」
お父さんが仕事で中国に赴任しているので、実際に中国に行ったことがある子が答えます。自文化とは言っても、狭くは「自分の家庭」から始まって、地域・学校・会社・地方と言ったように範囲がさまざまです。「日本文化」と言っても実は「多様」なバリーエーションがあります。言葉なら「方言」。料理の味付けも、形もさまざま。純粋な血統を守っているなどというものは実はほとんどないことに気づきました。
「外国から文化が入ってきても自分なりに変えてしまうんだね」
特に日本はもしかしたら異なる文化を自分なりにアレンジしてしまうことこそが特徴なのかもしれない……ということが早くも見えてみました。
「あんこ」は「和菓子」。なのに「パン」という「洋風」の食べ物と出会って「あんぱん」ができあがってしまう。
でも、これは「モノ」の話。異なる文化は、態度や考え方、マナーなども含みます。
「ぼくたちからしてみるとケンカしてるように見えてもそれが普通のしゃべり方だったりするよね」
「みんなと合わせた方がいいって考えるのは日本っぽいかもね」
「そのおかげでみんな一緒に協力して何かをつくるのに強いんじゃない?」
「ただ、自分ひとりでも何かしようとしないんじゃない?」
頭の中が相当ぐるぐるしてきました。モノはいろいろとりこむのは得意そうなんだけど、考えをとりこむのはそこまで単純じゃないかも……
仮説めいたものも浮かび上がります。
多様なものとの出会いが自文化を豊かにする……でも、自分たちの考えを乱すから入ってきてほしくない……この2つのせめぎあいの中で、今の今、やはり中野のなかの世界は動いています。その実情を明らかにするために次週より外へ飛び出します!
RI
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