タイトル: 治の力
探究領域: 社会寄与
セントラルアイディア:私たちは私たちを私たちのために治めている。
[5・6年生]
「憲法」によって「権力者」が個人の「自由」を侵害することを防いでいます。個人は基本的な人権を与えられ、安全かつ健康な市民生活を保障されています。さらに、わたしたちのあり方は、民主主義の原則で、みんなの意見を「自由」に戦わせつつ「選挙」を通じて決めることができます。
しかし、実際は、政治家が国会議事堂内でプロセスもどきの乱闘を演じてみたり、丁寧な議論や正当な手続きを経ずに、夜中に、まるで闇討ちのように大事な法案を決めてみたり、デモをしている市民の中には、ただ「反対」を唱えているものもいたり、それでも自分の意見をはっきり意思表示するのはましで、別に今のままでいいじゃないの……とただ流されてゆく大多数の人々がいたりする。民主主義はうまく機能しているとは言い難い……
「個人に権利を渡しても、みんながうまく使えないなら意味ないよね」
「でも、自分で自由に決められないとやだよね」
「いやあ、みんなに決めさせると、多数の人が間違った判断しちゃう可能性があるよね」
「そうだよ。なんとなくよさそうなこと言って、多くの人を釣り上げることができるよ」
「だからさあ、おれは賢い王様にある程度決めてもらう方がいいって思うんだ」
「一部の賢い人に委ねるっていうんなら今もそうでしょ。だって政治家はぼくたちに代わって大事な判断するんでしょ」
「でも、選ばれた人が大したことなくて、ちゃんと判断してないじゃん。どうしてそんな人選んじゃうんだろうね」
子どもたちの対話は止まりません。話せば話すほど、民主主義の困難が浮き彫りになるばかりです。
そこで、改めて今回の探究のセントラルアイデアをふりかえってみることにしました。
私たちは私たちを私たちのために治めている
「おっちゃん、『私たちを』っていうのがよくわからないな」
ある子が突然つぶやきます。
私たちが私たちのために治めている
っていうのはまったくその通りなんだけれど、なぜ「私たちを」が入ってくるのか……
すると、別の子が、
「意識を意識するっていうのと同じで、自分たちのことを自分たち自身で意識しなさいってことじゃないかな」
おお、なんと鋭い。というか、これっていつもスクールで問題になっていることですもんね。すべてのトラブルの源は、軽率に何かをしてしまったとき。つまり「意識」せずに感情の赴くままに何かをやってしまったときに起こる。でも、この「意識」するっていうのが難しい。なんと言っても私たちは「無意識」という存在に左右されて行動していますからね……「私たちを」「私たちのために」コントロールするっていうのは本当に難しい。子どもたちはこのことを身にしみてわかっています。
そこで改めて子どもたちに問うてみます。
「やっぱりさあ、完全に民主主義っていうのは、よりよい世の中をつくるのには向かないよ。賢い王様に決定権を渡して、その人に従って生きれば、そこそこよい暮らしができるよ!っていうのがいいんじゃない?」
自分の「自由」を返上しても、そこそこの暮らしが与えられるならそれでいいじゃないかという問いかけです。
「おっちゃんはどうなんだよ?」
そうだよね、君たちに問うてばかりいないで自分の考えを明らかにしなさい!という君たちの要求ももっともだ。ということで、「自由を返上するか?しないか?」で決をとることにしました。
「いっせいのせ!のかけ声の後、目をつぶって左右どちらかに飛ぼう」
私も含めた8人が一列に並びます。そしていっせいのせ!でジャンプ!すると……
「わあ、みんな同じじゃん!」
そう、みんな(私も含め)、自由を返上するのは嫌だと判断しました。
「どうしてそこそこ幸せに暮らせるのに、自由に決めたいって思うんだろう。ルールを守って、自由制限されて生きるのって悪くないじゃん」
この問いかけに対し、みな口々に
「でもさあ、やっぱり自分で自分のことを決められないのは嫌だよ」
あれ?みなさん!大事なこと忘れてませんか?今、考えなければいけないのは「私」というより「私たち」のことですよね。「私たち」がそれぞれ「自由」なことをしてよいなんていうのではただバラバラな無法地帯を生むだけではないですか。
「そうか、だから自由を制限するルールがあるんだよな。」
「でも、それはやっぱり賢い王様的な人がきちんと判断するからっていう条件つきじゃん。」
「あれ?これどこまで言ってもぐるぐる話がまわるだけじゃない?」
自由の制限=責任=みんなのため
でも、過剰な自由の制限=一部の人の利益=悪しき独裁
に陥ってしまいます。悪循環したときにそれを食い止め、新たな動きをつくりだす保障?それが民主主義に託された可能性かも……「わたし」は「わたしたち」になれるのか?ということを「民主主義」は「わたしたちに」つきつけているのです。
RI
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