特定非営利活動法人 東京コミュニティスクール

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“balanced”ってどういうこと?

[5年生]

テーマ学習で行う探究領域は6つあります。その中でいちばん難しい……と私が
感じているのは、今回行う“共存共生”です。

“共存共生”って要は環境問題を扱うということでしょ?
だったら「探究」しやすいんじゃないの!

一般の小学校では、総合的な学習の時間で、ゴミ問題やエネルギー問題など
環境問題について多く扱われます。地域のゴミをみんなで集める、どうしたらゴミ
が減るか考える……この夏は節電を迫られるから校舎の壁面を緑のカーテンで
覆う、極力エアコンを使わない方策を考える……いくらでも“共存共生”で「探究」
するネタはあるんじゃないの?と思われる方もいるかもしれません。

まずは、「目に見える事実」をどうするか考えてみることから「探究」は始まります。
したがって、「解決法」を見つけ、その「解決法」を実践することは「探究」の入口
として間違っていません。だからこそ、これまで子どもたちは、手作り浄水器で
水を浄化してみたり、スクールの電気使用量を出し、節電プランを考えるという
テーマ学習を積み重ねてきました。

しかし、「探究する力」を拡大してゆくには、

「目に見える事実」の背後にある「目に見えない真実」

を探るところまで深めてゆかなければなりません。目に見える、取り組みやすい、
具体的な「解決法」にだけ目を向けるのではなく、「問題」を生み出している、目に
見えない“根本要因”に思いを寄せる必要があるのです。たとえ「対処療法」だった
としても、額に汗して実際に解決してみる体験は「探究の原点」となるでしょう。
しかし、それはあくまでも「原点」であり、自分が努力して実際に何かした!という
「充実感」を過大視し、物事の本質を見抜く目を曇らせているなら本末転倒である
ということを探究教師は肝に銘じ、子どもたちに伝えてゆかなければなりません。
そうでなければ、一時の「体験」や「知識」の蓄積だけにとどまり、「認識」の変容
をもたらす探究型の学びの本質に迫ることはできません。こう考えると、日々の
子どもたちの実感と思いっきり乖離している“共存共生”という「認識」を形成する
学びはきわめて難しいのです。

さて、今回のテーマ学習のタイトルは、「ロストエナジー」です。子どもたちにとって、
3月11日以降の状況は、省エネ、節電、原発、放射能を「わがこと」としてとらえる
契機になっていました。そこで、いったい子どもたちがどんな先行体験をし、既有
知識をどう構築しているか思いっきり“吐き出し”てもらうことからスタートしました。

「放射能を含む物質は空中から降ってきて、地面にたまるから放射能の濃度は
地表で測らないとダメなんだよ」
「原発を使わないで風力とか自然エネルギーを使えばいいんだ」
「ぼくの家で線量計を使って放射能量測ったら高い数値が出たよ」

浜岡原発、東海村事故、情報隠ぺい、汚染された土地を利用してのメガソーラー、
火力発電の稼働率を上げる、チェルノブイリ、幼児や子どもへの放射能の危険性
等々……次から次へと出ること、出ること。

あっという間にホワイトボードが子どもたちから出てきた言葉で埋め尽くされました。

だいたい子どもたちの知識や意識が見えたところで、

「今回の学びで目指す学習者像はどれだと思う?」

教室の壁に貼ってある、学習者像を描いたポスターを見るように促すと……

真っ先に挙がったのが“communicators”でした。

「私たちが学んだことをきちんと伝えるのが大事だから」

というのが選んだ理由でした。次に挙がったのが“knowledgeable”でした。

「エネルギーとか節約の仕方とかの正しい知識を知ることが大事だから」

というのが選んだ理由でした。

「どちらでもないよ!」

そう私が答えると、子どもたちは「えーっ?」という戸惑いの声を上げました。
知って、伝えることが今回目指す学習者じゃないとしたら???ミッション提示型
「探究」において不可欠な「なんで?」という違和感が喚起されました。

子どもたちの頭の中には、テレビなどメディアが大量に流出し続ける情報や親から
聞いた話などでいっぱいでした。自分の身に迫る漠然たる「不安」を子どもたちが
感じ、これだけの「情報」を頭に蓄えてしまったのでしょうが、当然ながら、冷静に
判断した上で取捨選択されたものではありません。これでは、どんなに好奇心を
持ち、knowledgeableになり、それによって得た知識をcommunicatorsとして伝えた
としても、かえって危うい「情報」を流布してしまうことになりかねません。

知って、伝える以前に、私たちが「ロストエナジー」を考えてゆく上で大切にしたい姿、
それは……

“thinker”“reflective”“balanced”

これら3つの「学習者像」を目指すために今回の学びがあることを伝えました。

これらの「学習者像」を具体化するとどんな姿になるのかたずねてみると、

「いろいろ発想して、想像して、アイデア出せるのが thinker だと思う」
「テーマリフレクションってふりかえりのことだから、reflective は、失敗とか悪い
ところとかをふりかえってよくすることだと思う」

というようにポスターの絵を手がかりにしながらそれなりに的を射た答えが返って
きました。

ところが、balanced については、「バランス」という外来語として普段使われている
英語のはずなのに、

「火力と自然エネルギーのバランスをとる」

というような意見しか出て来ず、いったい balanced な人とはどういう人なのか
子どもたちはイメージできなかったのです。

「政府やマスコミは自分に都合のよい情報しか流していないから信じられない」
「原子力発電のいいところしかこれまでも言ってこなかったし、事故が起こった後も
必要な情報を隠したんだ」
「原発がないと困るという人がいるけど、ぼくは放射能の危険がある原発ありでは
生きられない」
「直ちにすべての原発を止めて、太陽光発電にすればいいんだ」
「足りない電力は節電すればいいんだから、原発は止められる」

とにかく、子どもたちは“熱く”語り続けました。子どもたちが既に知っていることで
十分「提言」をまとめられそうな勢いでした。しかし、「ロストエナジー」というテーマ
学習の目的は、問題の解決法を単に提案するのではなく、問題を引き起こしている
価値観や考え方に踏み込むことです。だからこそ、目指すべき「学習者像」が
balanced なのです。

子どもたちの「発言」から、彼らの現状がいか
に un-balanced であるかが明らかに
なりました。もし子どもたちが un-balanced である限り、今直面しているエネルギー
問題の“本質”に到達する「探究」にはなりません。どっちがいいか悪いかの「二者
択一」ではなく、いろいろな可能性や選択肢を多角的に考える balanced な感覚を
持つことで初めて、今後、直面する不確定な事態に、冷静に対処できることができる
と言えましょう。

目指すべき学習者像を示して学びを進めることが、いかに重要であるか改めて痛感
する幕開けとなりました。「この夏、節電しよう!そのためにはこんな対策がある!」
「原発は危ない!その代わりに自然エネルギー!」といった学びとは一味違う、物事
のとらえ方、考え方について学ぶ「探究」のスタートです。

RI

TCS2011年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。

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