特定非営利活動法人 東京コミュニティスクール

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ストーリー構築の難しさ

[5・6年生]

さて、みなさん。子どもたちが「発散するフェイズ」を動画でご覧になりましたか?
(http://www.ustream.tv/channel/tcs-tv1)
いくつかの「制約」(“人類の持つ可能性を伝える”“宇宙に飛び出すという設定”
“登場人物のキャラクターをIBのLearner Profile に沿って考えること”
“SF、つまり、科学的な要素と大胆な発想をおりまぜること”)をふまえながら、
子どもたちが「素の意見」を思いっきり出していました。そこには、各々の意見を
巻き込みながら、竜巻のごとく、次第に渦が大きくなってゆくダイナミズムがあり
ました。

「今日の日はさようなら」という名曲を世に送り出し、ジャズミュージシャンとして、
また英語教育家としてマルチに活躍なさっている金子詔一さんという方がいらっ
しゃいます。金子さんは、『探究する力』に強く共鳴し、ある日ふらっと見学にやっ
てきて、実際に子どもたちがどんどん発想をふくらませている様子をご覧になり
ました。

「Jazzyだね……感動したよ!」

まるで良質のJazzのように、それぞれ順番に主張しつつ、突然かけあいがおこり、
めくるめく「発想」の流れが生まれていると金子さんはおっしゃいました。

小学5・6年生になると、それまで無邪気に意見を述べていた子たちが急に話さ
なくなります。先生の質問に対し、子どもが答えるという「一対一」のやりとりに
終始し、先生も子どもも一体となったJazzyなかけあいなどまったく起こりません。
かりに意見を言う子がいたとしても限られた数人で、いつも決まった子が発言する
という状況に陥ります。その子たちの意見も「当たり前の内容」になりがちです。
「発想」を広げる活発な意見のやりとりの起こる状況を生み出すために、先生が
楽しく盛り上げると、今度は、チャラけた受け狙いの発言が目立ち始め、お互い
を批判しあう意見の応酬となり、結局、先生は沈静化せざるを得なくなってしまう
のです。

「じわじわ」と探究型の学びを積み重ねてきた「成果」が、高学年になって大いに
発揮される“Jazzyなかけあい”です。これなくして、探究の質は深まりません。
子どもたちの「発散」の渦が頂点に達し、みな上空高く舞い上がったところで、
いよいよ次のフェイズ……「俯瞰」へ突入です。

「さあ、いよいよストーリーを固めないとね……」

「発散」してたくさん出た要素を活かして面白いストーリーを創り上げる段階に入り
ます。そのために出たアイデアの全体像を「俯瞰」して、選んで、捨てて、組み合わ
せる……要素を単にたし算するだけでは散漫になるだけ……だからといってただ
適当にひき算するだけではせっかく集まった素材をムダにしかねません。

そこで、まずは一人ひとり別々にここまで集まった材料を取捨選択して、個別の
ストーリーを編んでもらいます。

「地球から脱出する理由は、絶対に大きな危機が起こってもう住めなくなったと
いうんじゃなきゃダメだよ」
「環境破壊とか、戦争とかで住めなくなったというのは嫌だな」

地球を飛び出す理由についてもさまざまな考えが出ます。

「主人公は10歳ぐらいの男の子だよ」
「何人か博士が出てきてその中に悪だくみするやつがいるんだ」

登場人物についても当然、多様な考えが現れます。

「記憶喪失は絶対に入れたい」
「タイムスリップするあめをなめて主人公は未来から現代に来たことにする」
「ブラックホールをからめようかな」

いつまでたっても個別のエピソードを選ぶだけにとどまり、エピソードどうしを
うまくつなげて、面白いストーリーに仕上げることができません。

やがて、ストーリーらしきものを語り始める子どもも現れますが、最初に確認した
「制約」をそっちのけにしたものでした。

どんなに個別のエピソードが面白くても、ストーリーがなければ、つながりのない、
つまらない紙芝居になる……まずは、端的なあらすじをまとめること……

このことを子どもたちは十分わかっているのに、なかなかうまくいきません。
それもそのはず。物事をストーリー化してまとめる力は、大人でも身につけていない
人が山ほどいる高度な能力だからです。この「ストーリー構築力」こそ、今回のテーマ
学習で子どもたちに育てたいスキルです。だからこそ、なんとかこの「難関」を乗り
越えてほしい!祈るような気持ちで探究教師は子どもたちを見守ります。

「なんか時間が長く感じる……」

熟考して、まとめる「収斂」のフェーズは、熱いやりとりがなされる「発散」のフェーズ
とは大いに異なり、静かで重苦しい瞬間を乗り越えなければなりません。それを
私は「成長をもたらす意味のあるよどみ」と称しています。まさに今、その瞬間に
さしかかりました。

前半、3週間を終えて、宇宙紙芝居のストーリーの骨格はできあがりませんでした。

あと3週間しかない……

子どもたちも次第にあせり始めます。そこで、ゴールデンウィークの課題として、
改めて、①どんな事情で地球を飛び出し、②宇宙空間でどんな事件が起き、
③他の星でどんな出来事に出会い、④どのように地球に戻るか、⑤その間、
主人公たちはどう行動し、最終的にどうなるかという流れをまとめてくるように
指示しました。

今回のテーマ学習の最大のヤマ場を子どもたちはどう乗り越えるのか……
探究教師にとって最も苦しい局面に立たされました。

RI

TCS2011年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。

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