タイトル:Borderless World
探究領域:共存共生
セントラルアイディア:「人権は自由、正義及び平和の基礎である。」
[5年生]
逮捕されたらろくに取り調べもされず、何日も監禁され、拷問されるのが当たり前。まともな裁判すら受けられない。そんな国があります。また、「難民」として、自分たちの生まれ故郷を離れ、他国に脱出しなければならない国もあります。脱出したところで、「難民」は厄介もの扱いで、まともな待遇を受けられません。世界は、まったく世界人権宣言の理想に近づいていない……情けない気持ち、怒りの気持ちが静かにわいてきます。
しかし、それは対岸の火事、ニュースで知る海外の出来事と言い切れるのか……私たちの住む日本では、人権は脅かされていないのか……
今週の探究は、自分たちの人権はこれからも守られるのか?ということでした。
子どもたちに、今、日本で脅かされそうな「人権」を世界人権宣言の中からピックアップするとどうなるかと問いを投げかけました。すると、多くの子どもが危うい!としたのが、世界人権宣言19条だった。
「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」
国会で総務大臣が「電波を止める可能性」を示唆する発言をしたことが大きく報道されていたり、政府に批判的な見方をするキャスターが軒並み交代したりということを子どもたちが知っていたことが大きかったのでしょう。
「都合の悪いことは知らせないよね」
「もし、それを知ったとしたらそれを言わせないようにするんじゃない」
権力者の手口は、子どもにも簡単にお見通しです。福島の原発事故についてもあまりよく伝わってきませんし、権力者をしばるためにある「憲法」に手を加えようとしていることについても、なんとなく密やかに進めようとしています。
「これってヒットラーの手口と似てるんだって」
ある子が、そんな意見を述べている人のコラムを見つけてきました。決して、恐怖で縛りつけるのではなく、なんとなくいいことも伝えながら、知らず知らず真綿で首をしめるように追いこんでゆくのがヒットラーの手口。現政権もそんな感じで私たちに迫ってきているのでしょう。そうなると、ますます、私たちがしっかり物事を見つめないといけません。
「ぼくたちがどんなことを考えているか、それを盗み見されない。プライバシーの権利もある」
「みんなで力を合わせるためにグループをつくったり、集会したりする権利も守られていないと権力者に対抗できないよね」
19条から派生して、12条・プライバシーの権利、18条・思想・信条の自由、結社の自由も危ぶまれているのではないかという考えが出てきました。
「そうなると、やっぱり憲法改正っていうのがやっぱりいちばん問題かもね」
私たちの基本的人権を守ってくれているのは憲法です。どの法律よりも強い効力を持って、私たちの権利を守ってくれるよりどころです。それが改正されるとき、どこを改正されるのかをしっかり見極めないといけません。
「9条の改正っていうけど、もっと恐い改正が97条の削除だよ」
デジタルネイティヴの検索能力は侮れません。こんな重大な情報をも見事につかまえます。
日本国憲法第97条とは
「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
という極めて重大なもの。それが自民党の改正憲法案では丸々削除されているのです。
「ひどい……ぼくらの基本的人権よりも国家の都合なんだな」
もし、この改正がなされれば、いちばんの被害者となるのは、今の子どもたちです。大人になって悲劇に直面するのはこの子たちなのです。
「ひどいよな……」
本気で子どもたちはがっかりしています。私たち大人は、このなな子どもたちに負の遺産を残してよいのか。ろくなことをせず、子どもに迷惑をかけ、妨害し、害ばかり与えている大人たちの姿が浮かび上がります。なんて悲しいことでしょう。
「危ういね……」
ぼそりと出た子どものつぶやきは、くやしさと残念さが込められていました。もはや、知識の学びではありません。生き方を問われる学び、そして自分がどうもできないうちに決められてゆく理不尽さの学び。子どもにこんな学びを強いていることを、恥じる気持ちがあふれてきました。
authentic な探究の学びは本当に苦しい。きれいごとでは済まない、きつい学びです。大人の都合を子どもに見透かされながら、あきらめたり、やけになったりせず、前向きに考えなければならない。そんな本気の追究の日々が続きます。
RI
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