タイトル:似て非なるもの
探究領域:自主自律
セントラルアイディア:「私たちは過去を受け継いで、未来を創り出す。」
[5・6年生]
変わりたいのに変われない自分。どうしたらいいのかわからない。
変わることなんてできるのかな。
そんな素直な思いから、ついつい、
「デザイナーチャイルドになりたかったなー。」とつぶやく声も。
果たして、デザイナーチャイルドは本当に幸せなのか。
そんな疑問を今週はディベートの形で考えていきました。
彼らは前回のテーマ学習においてディベートの型を学び、それを通して自分の考えを磨くということをやってきています。
「デザイナーチャイルドの方が恵まれている」という論題で肯定側と否定側に
くじ引きで分かれました。7人いるので1人はジャッジにまわります。
肯定側の立論
・病気の遺伝子を取り、いい遺伝子を入れた、デザイナーチャイルドは、すべてにおいて優れている。
・優れているから遺伝子もオンの状態になる。なんでも完璧で失敗しない。
・優れた人が増えていけば、争いごとは起こらない。
よって、デザイナーチャイルドが増えることで世界平和につながり、恵まれていることになる。
「え?デザインできるのは遺伝子でしょ?オンとかオフは設計図とは関係ないんじゃないの?」
そうつぶやく否定側からの立論は次の通り。
・デザインされると、個性が決められたものになってしまう。
・親から受け継ぐものとそうではない部分があるなら、それは本当の親子っていえない。我が子と思えない。自分が生まなくてもいいし、自分の子でなくてもいい。
・遺伝子のオン・オフは生まれてからの環境によって変わる。
ただ、論題を否定する決め手はまだ思いつかない様子です。
また、自信たっぷりにデザイナーチャイルドは優れていると主張され、否定側はやや押され気味にも見受けられます。
面白いのは、肯定側は決して本心で言っていないということ。
ディベートはジャッジをどう納得させるかで勝敗が決まるゲームだということをわかっているため、勝つためにジャッジにデザイナーチャイルドのよさを訴えかけているのです。
続いて反駁。
否定側も負けじと、肯定側の主張に反論します。
・完璧で失敗がないと前に進めない。人は進歩しない。
・デザイナーチャイルドだって、完璧ではない。
・デザイナーチャイルド同士でどっちが上かって争いが起こり、差別が生まれる。自分が一番、一番ってなる。
もう一押しで説得力のある話になるのに何かが足りません。もっと、生まれてからどう生きていくのかという本人の意思や努力に焦点をあてたり、環境面に触れたりしていけばいいのにと思うのは私だけではない様子。ジャッジになった子や肯定側に立つ子たちも「言いたいけど助けちゃうことになるから・・・。」ともどかしさを表しています。
そんな思いもあってなのか、否定側の反駁がきっかけに流れが変わってきます。
・もともとの卵子と精子は親のものだから、親の子だといえる。親から受け継いだ不利益な遺伝子もなくなるし、嘘をつく遺伝子も取り除ける。争いのない世の中になり、その中で生きていけるのは恵まれたことになる。
・デザインされてなければ、人はよくならない。環境もよくならない。環境が悪いとデザイナーチャイルドでも悪くなる。
「ちょっと、今の首締めるような発言だよ!」
「え?」時すでに遅しといったところでしょうか。
「そうそう、ぼく環境にすごく左右されやすい。」
環境が変わったことで自分がよくなったことを火が点いたように話し始めた子が出てきました。実際に経験したことがあると説得力は増します。話し出した子はジャッジの立場。否定側には不利な話を自ら持ちかけてしまいました。
これまでの話を踏まれて、それぞれが立論し直します。
否定側
・デザイナーチャイルドでも争いは起こる。
・自動運転できる車ができたら車はいらなくなるでしょ。デザインされた人ばかりなら人なんていらない。
・似ているから親子であって、似てなければ親子じゃない。似ていないと生活とか習慣に食い違いが起こる。それに親が子どもを頼るようになる。遺伝子を引き継いでいるから親子。
・普通の人はデザイナーチャイルドより環境に影響される。環境がよくなれば、よくなる。人は小さな失敗や大きなショックで変われる。それに、デザイナーチャイルドって責任を持って生まれてきて本当に幸せなの?
肯定側。
・病気の可能性を持っている場合とか嘘をつく遺伝子を持っている場合とかは悪い可能性が少なくなる。良い点も入れていける。だから、あらゆる点でデザイナーチャイルドは優れている。コンプレックスがない。
・デザイナーチャイルドが増えていけば、人格がよい人が増えて世界平和につながる。
・一人ひとりがよくなれば、周りがよくなっていく。デザイナーチャイルドでなくてもよくなっていける。
「それ言ったらダメだよ!」
「あー、もう負けだー。」
落ち込む肯定側に対して、否定側もこれという根拠を持つことができないままに終わってしまい「もう決まってるよ。」とお互いにジャッジは自分たちを選んでくれないだろうと思っています。
そんな中、ジャッジの判定は「肯定側」でした。
ジャッジいわく、デザイナーチャイルド自身の個性が恵まれているかは考えなかったとのこと。世界平和になることが恵まれていることになるという話に納得をして肯定側を支持したといいます。
遺伝子は設計図。それがどう働くかは可能性の問題であって100%ではありません。環境の話になると肯定側が不利になっていったのもそのためです。また、最後に否定側が「デザイナーチャイルドは幸せなの?」とジャッジに問いかけるようにいった言葉をもう少し突っ込んで説明していれば判定が変わっていたかもしれません。デザイナーチャイルドの立場に立った話題がなかったことを伝えると双方が頷いていました。
思うままに体型や能力を遺伝子に組み換えることができたら、その人は幸せなのでしょうか。でも、それを自分で決定することはできません。「親にデザイナーチャイルドにしてもらいたかった?」と聞くと、一人は病気だけは組み換えてほしい「病気だけね」と強調していい、ほか全員、NOと答えました。
また、ディベートを終えたあとに個人的な意見を聞いてみると7人全員が「否定側」でした。
自分たちは遺伝子だけに左右されているのではない。
環境によって変わることができている。
それは、自分の中に眠っている遺伝子をオンにしていることなのかもしれない。
デザイナーチャイルドの方が恵まれているとは思っていません。
なりたいと言っていた子も、病気の部分を受け継がないで済むならその方がいいけれど、それ以外の部分をデザインされるのは嫌だといいます。
親から受け継いだものを受け止め、自分はどう行動し、どう変わっていきたいのか。
来週は、その思いを歌詞に表現していきます。
AN
※TCS2015年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。