タイトル: 銀河鉄道に乗って
探究領域: 時空因縁
セントラルアイディア:創造の原動力が想像である。
[5・6年生]
私が Tedx Tokyo Teachers で取り上げたのは、子どもとともにつくりあげた葬式劇でした。数十年後に恩師の「葬儀」でかつてのクラスメイトと再会したとしたら、未来の自分が、その場で、どう「生きて」いると語るのか、また、弔辞を述べなければならないとき、バトンを先輩から引き受けた者としてどう生きてゆくと宣言するのか、演じることでまさに「未来」を生きてみるという劇です。こんなシリアスかつ難解なテーマで小学生が劇など演じられるわけがない。かりに演じたとしてもそれは大人がつくったシナリオにのっとってに違いないと思う方も多かったのですが、見事に子どもたちは、未来の自分になりきって、大人顔負けの劇をつくりあげたのでした。
それは「劇 play」という仕掛けが、人の気持ちを「playful」 にし、とことん「遊ぶ play」気持ちを解き放つからです。「遊ぶ」というと何か楽しげなことをするお気楽なイメージをお持ちの方もあるかもしれませんが、実は、まったく正反対です。自由に発想してよいのですが、そこには「制約」があります。何でもありでは「遊び」にならない。「制約」があって、「困難」があって、簡単にはいかないのだが、それをとらわれのない発想と、大胆な行動で乗り越えてゆくのが「遊び play」なのです。まさに真剣勝負。笑いなど一切起こらず、一見すると苦行のように見えながらも、試行錯誤を辞さずしつこく取り組む活動です。
「劇」がplay と呼ばれるのは「遊び心」を解き放つ仕掛けの象徴だからでしょう。「もし、こうだとしたら」という「状況」を設定し、そこで「どんなことが起きるか」そこに居合わせた人に「なりきって」シミュレーションするのが「劇」です。それは架空だけれど、なんでもありではない。とはいえ、現実の枠にのみ閉じる必要はない。「リアル」に起きそうなことなのだけれど、それは今自分が生きている「リアル」とは異なるもうひとつの「リアル」。パラレルワールドを想定してそこでの「リアル」を徹底的に想像するのが「ファンタジー」でしょう。「劇」はそんなファンタジックな状況を目の前に見せてくれる仕掛けと言えましょう。
哲学者・科学者の行う「思考実験」、開発担当者やマーケッター、行政に携わる人たちが現状を把握し、未来を予測する際に行う「シミュレーション」は、「劇」と同じです。人が実際に演じてみた思考実験・シミュレーションが「劇」と言い換えてもよいかもしれません。
私たちが将来どんな未来を迎える可能性があるのか、そのとき自分たちはどんな行動をするのか。他人事ではなく、当事者として意識するには「劇」がうってつけ。ゲームなら2次元平面上で繰り広げられるのでしょうが、「劇」は3次元平面上でキャラクターに自分がなりきって動いてみるゲームです。その際に、リアリティが求められるわけですから、裏づけとなる科学的事実を必死になって得ようとするし、それがふさわしいかどうか必死になって理解しようとします。さらに、わからないことや不明なことが出てきたら、あり得そうもないような「仮説」をぶちこむことが可能です。それが「遊び」です。こうしているうちに、ストーリーは自ずと立ち上がって来ます。このストーリーの創発性を、即興で劇をつくりあげてゆく醍醐味を知らない方は理解できないのでしょう。だから子どもたちのイキイキした演技を見て、
「シナリオを読んでみたい」
とか
「セリフ覚えるの大変だったんじゃない?」
というようなとんちんかんなフィードバックをしてしまうのです。彼らは決してセリフを覚えていません。状況や前提条件をしっかり共有し、自分が演じているキャラクターがどういう意味合いを持っているのか熟知しているから、セリフが自ずと口をついて出てきてしまうのです。だからセリフを覚えてはいないのです。これがなりきるということです。
もちろん、ここまで「なりきって遊ぶ」ためには、それまでに集めてきたさまざまな知識や、話し合いの蓄積が利いているです。だから氷山の一角として、ちょこんと浮かび上がるのです。海面下の氷山の大きさこそ、表にあらわれた「劇」の質に直結しているのです。冗長に、徹底的に、あれこれ情報を集め、それについて幾通りもアイデアを練っては捨ててきたプロセスが花開くのです。これが TCS のテーマ学習を「探究」たらしめているのであり、もはや TCS のお家芸ともなりつつある「なりきり即興演劇」を支えているのです。
play で playful に play することで creative になる。その原動力はまさに imagination だった……
最後の最後まで、改訂を辞さず、しつこく磨き続けた結果、面白い宇宙 SF 劇ができあがりました。これは映像で永久保存しておかないといけないな。
RI
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