タイトル:ロストエナジー
探究領域:共存共生
[5年生]
『イノベーションは葛藤をこえて生まれる』をcentral ideaに
掲げた今回の「ロストエナジー」。
「脱原発 vs 原発推進」といった単なる二項対立に留まらず、自分
たちの価値観を見直し、電力に依存しない生き方をどう実現してい
けばよいか。
そのヒントを得るために、栃木の那須塩原にある「発明家」藤村靖
之博士の非電化工房を見学させていただきました。
片道3時間の電車ぶらり旅。
車窓から見えるのどかな風景を楽しみながら、目的地に向かいます。
最寄り駅まで息子さんが車で迎えに来てくださり、駅から約20分
かけて、やっと那須のアトリエに到着。
先週の大雪がまだまだ残っていたアトリエにて、藤村さんは満面の
笑顔で私たちを迎えてくださいました。
簡単な自己紹介の後、早速、敷地内にある建物を一つずつ見て回る
ことに。
まずは、ムーミンハウスと名付けられた非電化ノンケミカルのガー
デンハウスへ。
「おお、中は意外に広いなあ。」
この六角形の木のお家はムーミンの故郷フィンランドからの輸入品
で、子どもなら20人程度は入れる広さです。
キット価格130万円というリーズナブルさと大人3人で2〜3日
で組み立てられる手軽さに、思わず子ども達から
「スクールの屋上に建てて、教室替わりにしようよ!」
「近所の公園にこっそり建てられないかなあ。」
なんて感想も。
中央にはグリルが据え付けられ、それを取り囲むベンチにはトナカ
イの毛皮が敷かれたこの居心地が良い空間を子ども達もすっかり気
にいったようです。
次に訪れたのは木製の鶏小屋。
よく見ると、この小屋、三角形の変わったつくりをしてますが、な
んと二階建て!
温かい空気が上にのぼる性質をいかして、鶏の寝床を2階に設けて
いるのです。
「ほんとだ、2階は空気が少し温かいよ。あっ、卵がある!」
朝に産みつけていた卵をお土産として頂いた5年生の男の子。
慎重に卵を運びながらも、表情は嬉しそうです。
見学の途中で昼食を挟み、午後は目下建設中の非電化カフェや非電
化製品の工房も見学させてもらいました。
敷地内の建物を一通り見終えたので、母屋へ戻り、薪ストーブの前
で藤村さんを囲みます。
電気との向き合い方を考え続けてきた発明家を目の前に、ただお話
を聞くだけではもったいないということで、無理を言って、今回の
テーマで現時点で自分たちが考えるアイデアをぶつけてみることに。
子ども達のアイデアを穏やかな表情で聞き入りながら、メモを書き
進める藤村さん。
すぐにフィードバックを返すのではなく、なぜ「非電化」という発
想に至ったのか、その思いを語ってくださいました。
「非電化は電気を全く使わない生活を目指してる訳じゃないんだよ。
選択肢を増やして、電気を使うのと使わないとどちらか愉しい方を
選べばよいと思ってるんだ。」
「僕は自分で豆を炒って、お気に入りのコーヒーミルで豆を挽く時
間が好きなんだ。手間をかけてつくったコーヒーは格別だよ。これ
は豊かな時間と言えるよね。」
「掃除機は確かに便利だけど、僕はほうきを選ぶね。手作りの質の
良いほうきを使い続けていると愛着が出てくるからね。」
子ども達も藤村さんの話に真剣に耳を傾けます。
「アフリカやモンゴルといった途上国を訪れることが多いんだけど、
彼らの抱えている問題を発明という形で解決すると、ものすごく喜
ばれるんだ。」
「僕たち先進国の人間は電気に頼りすぎているけど、本当に必要か
どうかを考え直さないと、このままではまずいと思うだよね。知ら
ず知らずのうちに凝り固まってしまった人の「マインドセット」を
変えるために、僕は活動してるんだよ。」
穏やかな口調の裏にある熱い思いに触れ、子ども達も思うところが
あったよう。
名残惜しいですが、帰りの電車の時間が来てしまったので、最後に
やぎのペーターと写真を撮り、非電化工房を後にしました。
翌日のふりかえりで、印象に残ったことを質問すると、みるみる模
造紙が埋まっていきました。
特に、気候が暖かくて、バナナが豊富に実っている土地で楽しく暮
らしていたアフリカの人たちが、先進国の影響を受け、経済発展に
重きを置いた結果、精神的な豊かさを失ってしまったエピソードは
強烈に印象に残った様子。
「幸せって何だろうね・・・」
経済的に豊かになることにあまり疑問を感じていなかっただけに、
ショックを隠しきれません。
非電化の暮らしはできそうか問いかけると、
「うーーん、愉しそうだけど、ずっとは無理かな・・・」
「手動だと、面倒くさい事も多そうだし・・・」
と煮え切らない返事が。
藤村さんのおっしゃることは頭ではわかるんだけど、今の快適さと
便利さを手放すのは難しいのではないか。
現状では、そんなマインドセットに凝り固まっている様子が伺えま
す。
本当の豊かさとは何かを問い直す必要があるようです。
HY
※TCS2013年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。