タイトル: 銀河鉄道に乗って
探究領域: 時空因縁
セントラルアイディア:創造の原動力が想像である。
[5・6年生]
インターステラの世界に触発された子どもたちは、家庭で親と語ったり、i-pad を持ち帰って宇宙に関する動画を探したり、勝手に動き始めました。そしていきなり熱く語り始めるではありませんか。
「ブラックホールはねえ、超新星爆発した後にねえ、中心がぎゅーって縮んで、すごい重力の点になるんだ」
「光も抜け出られないんだよね」
「光が抜け出られないなら光より速いスピードがあるのかな」
「おれたちの世界では光速が最高かもしれないけれど、おれたちのまだ気づいていない世界では、光速以上の速さがあるんだよ」
興奮して話し続けます。なんでまあこんなに熱くなるんだろう。完全に『宇宙白熱教室』となっております。
物理学の歴史は、ニュートン、アインシュタインによって大きく発展してきましたが、ファインマンに代表される「量子力学」の登場で、科学の世界とファンタジーの世界の境目が消えます。論理的な説明と実証とが可能だったニュートン力学、一般相対性理論の世界を超えて、数学的には説明できるけれど、実験や観察によって実証できない世界の存在があることを認めざるを得なくなったのです。
物ではない物の存在。「何もない」と思われる空間に作用する働き。「何もない」はずなのに波のようにふるまう……それが「量子」であり、具体的な姿を私たちには見せてくれないのです。
そんな最先端かつ難解な部分に小学生がいきなり?理解できるの?もっと基本的なことから始めないといけないんじゃない?と思う方は、「探究」という学びをつかんでいないということです。私たちが知識をつくろうと思うのは、現実にとても興味深い何かがあるから。それはわかったようなわからないような複雑かつ難解な装いを持つもの。そこに惹かれ、まずは自分なりに「理解」してゆこうと立ち向かう。正解かどうかはどうでもいい。思いっきり想像力を全開にし、自分なりのイメージを形づくる。こういう学び体験を経て、未知の状況に出会ったとき、ひるまず、常識の壁を乗り越えて発想しようとするマインドが育つのです。
「量子は情報だからデータ化して送れるよね」
「そうか。そのデータに基づいて復元すれば肉体がつくれるんだ」
「いや、肉体はもはやいらないんだ。意識のデータさえ送ってしまえば、後は肉体はレンタルすればいいんだよ」
量子テレポーテーションに関する動画を見て、その原理を理解した子どもたちは大興奮。これから製作する宇宙SF劇をつくりあげるために必ず必要となる移動手段のひとつを早くも見つけました。あっ、このウェブをお読みの方は、量子テレポーテーションと言われても???かもしれませんね。スタートレックの中で、人が瞬時に別の場所に移動可能なカプセルのようなものが出てきますが、あれです。離れた場所に同じ粒子を置きます。一方の粒子に別の粒子を結合すると、遠く離れた場所にある粒子が結合した別の粒子に姿を変えるという現象が実験によって確かめられているのです。これを量子テレポーテーションと呼ぶのです。この原理を用いれば、瞬時にある場所から別の場所へ粒子が送れます。送られた粒子に基づいて、3Dプリンターのような再構築装置で復元すれば、自分がそこに出現するというわけです。
もちろん、興奮して語り合う子どもの傍らに、話の展開についていけず、置いてけぼり気味の子がいます。でも、その子も、あわてる素振りはありません。i-pad で今話題に上がっている内容をわかりやすく説明しているサイトを探しています。
「ああ、そういうことだったのか……じゃあこういうことも言えるんじゃない」
興奮して語り合っているときには見えなかった「視点」や「発想」が、冷静に考えてゆく中で生まれてきます。これぞ時間差の効用。
みんなが同じときに、同じように理解しないといけない……というのも教育にまつわる「都市伝説」と呼んでもいいぐらいの思いこみかもしれません。むしろ「理解差」「時間差」があるからより多面的に知が構築できるのでしょう。
さあ、ここまでイメージが活性化されたら、一気呵成にストーリーづくりに入るしかありません。早くもつら楽しい、つくりこみフェイズに突入です・
RI
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