タイトル:詩人の旅
探究領域:意思表現
[3・4年生]
今日は激しい雨が降るという予報でした。そんなときにわれら「詩人の旅」の仲間たちは、井の頭動物園を訪れたのでした。
写真を見てわかるように、わたしたち以外、訪れる人はほとんどなく、閑散として静寂が満ちています。ふと、舟崎克彦さんの名作『雨の動物園』を思い出しました。
詩の神様が私たちに寄り添ってお膳立てしてくれたのか……と思うような雰囲気です。
入ってすぐのところにハムスターを自由にさわれるところがありました。
「わあかわいい」「たくさんいる〜」
さっきまでのしっとりした気分はどこへやら。みんな大興奮です。大胆に手をつっこみ器用に抱きかかえる子がいれば、おそるおそる手を出すだけでなかなかつかまえられない子もいます。係の人に抱き方を教えてもらいながら、やっと抱くことができました。おとなしくちょこんと膝の上に座っている小動物の重みや体温、息づかいが伝わってきます。
アニマルセラピーというものがありますが、動物に人間が癒されるというのは確かです。興奮しつつも、なんとなく子どもたちが柔和な感じになっているように見えました。
昼食を食べ終わったら、いよいよ園内に散らばって、詩のテーマとなる動物を見つけに出かけます。まずはざっと全体を見て、これ!っという動物が見つかったら、その動物をじっくり観察して、特徴をつかみ、のはらうたの要領で「なりきって」みます。
リス、サル、シカと見ていきますが、けっこう激しい雨が降っているにもかかわらず、そんなのまったく意に介さないように、元気で走り回っています。普段、晴れの日に訪れて見ている姿よりよほどイキイキしている感じです。これにはみんな驚き。こんなに元気に、はしゃいでいるような様子を見ると、動物たちにとっては「慈雨」なのです。
そんな中、雨のため屋外に出られず、気温もあまりたかくないため、シャッターを下し、昼間なのに暗い檻の中で、単調に体をゆっくりゆすっている動物がいるではありませんか。それは、井の頭動物園を代表する人気者、ゾウのはなこです。
はなこはもうすぐ70歳。戦後すぐ、まずは上野動物園で人気者になり、その後、この井の頭動物園に来ました。
檻の近くの壁には、はなこに関する情報がいろいろ書かれています。その中で子どもたちの目を引いたのは、大島に行ったときに脱走したことがあったということです。
「そりゃあこんなせまいとこいたくないだろうなあ」
「なんかかわいそうになってきちゃった」
動物園は行楽地……というのは人間のエゴに過ぎないという気持ちになってきます。目の前に置かれているぐにゃっと曲げられたタイヤホイールは、ゾウってこんなに力があるんだよ!なんていうことを無邪気に示すための展示になっていますが、もはや私たちには、はなこの無念さや悲しみが込められていりようにしか見えません。
「おれ、はなこのことを詩にする……」
わあっスゴイ!面白い!という「感動」だけではなく、ぐっと心の深いところからわきおこる気持ちを「詩」にするという気持ちが動いたのでしょう。
こうもりの檻の前で、じ〜っとつばさを閉じてぶら下がっているだけのこうもりを見つめている子。
雨なんか関係なく、追いかけっこをしている2頭のカピバラを楽しそうに見つめている子。
飼育員の人を呼び出すかのようにドアを開けようと足でガリガリやっているアライグマの憎めない様子に釘づけの子。
りす園の中をあわただしく走り回り、えさを食べたり、地中にえさをかくしたり、木の枝を走り抜けて、となりの枝に飛び移ったり、とにかく落ち着きのないリスをじっと観察している子。
それぞれこれを「詩」にしたら面白いぞ!という対象が見つかったようです。
お〜い よかったなあ。今日はのびのびできるぜ。
そうだね。いつも見られて、騒がれて、ほんとかったるいもんね。
うん、今日のおれたちが本当の姿なんてあの人たちにはわかりゃしないさ。
そんな声があちこちから聞こえてくる雨の動物園でした。
翌日、学んだ詩の技巧を活かしつつ、じっくり観察し、詩にしたい!と心から思った動物について詩作します。例によって、各自、机を離して、ひとりひとり集中できる好みの場所で詩を書きます。どんな詩ができあがるか……ゴールデンウィークの間にホームワークでさらに磨いてきます。できあがりを読むのが楽しみです。
RI
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