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民主主義は最低の制度?

[5・6年生]

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この写真の男は誰?と子どもたちにたずねたら、みな「???」となるだろうと思ったら、

「ああ、この写真見たことある。長崎と広島に原爆を落として戦争が終わったから平和が来たってピースしてるんでしょ」

6年生の女の子から思わぬ発言が出ました。毎度、毎度のことですが、子どもの prior knowledge をバカにはできません。いったいそんなことどこで聞いたのということが飛び出してくるのが、情報洪水・氾濫社会を生きる子どもたちです。

実際に調べてみると、単にチャーチルはビクトリー(勝利)のサインをしただけのようなのですが、2本の指で広島・長崎の2つの原爆を表しているのだという「都市伝説」的うわさが広まっていることがわかりました。

この写真の男、チャーチルが残した言葉によってゆさぶることから今回の学びはスタートしました。第二次世界大戦・太平洋戦争の勃発した非常時に活躍した名宰相チャーチルが発した言葉とは……

「民主主義は最悪の政治形態である」

いかにもチャーチルらしいブラックなウィットがこめられています。この後に「ただし、これまで試されてきたいかなる政治制度を除けば」という部分が続くというオチがあることはみなさんご存知でしょう。しかし、その部分は隠して、前半の部分だけを読んで子どもたちがいったいどんな反応を示すか探ってみました。

”民主主義”と聞いて子どもたちが真っ先に思い浮かべたのは、

「選挙で決める」

ということでした。みんなの考えを尊重し、ひとりの意見だけで決めないのだから民主主義はいい考えと思うのが普通なのに、チャーチルはどうして「最悪」とまでいうのだろう……なにか裏があるに違いないと探究慣れしている高学年の子どもたちはすぐに気づきます。

「みんなが納得するなんてあり得ない」
「自分の意見が通らないと不満が残って協力する気になれないんだよね」

民主的に決めることの難しさを子どもたちはつぶやきます。

「顔で選んだりする人がいるじゃん」
「好き嫌いで決めることもあるよ」
「ちゃんと考えないで選ぶ人が多いんじゃないのかな」

みんなに決める権利を与えても、その権利を正しく行使する姿勢を持たない人ばかりだったら民主主義ではなく、衆愚主義になってしまうことを子どもたちは見抜いていました。

続いて、こんな挑発をしてみました。「ということはレベルの低い人たちによって決めるより、優れた一人のリーダーが決めた方が間違いが少ないってことかな?」

この「挑発」は子どもたちにバレバレで、

「そんな都合のよいことは滅多に起こらないよ」
「たいていひどい独裁者になっちゃうんじゃない」

という否定的意見でバッサリ切られてしまいました。

けれど……独裁だから悪い、民主主義だからいいと単純に割り切れないという認識が子どもたちに芽生えてきました。この認識こそチャーチルが言おうとしてしていたことです。「制度」があるだけではダメ。それは「可能性」を秘めているけれど、その「可能性」をしっかり活かすように私たちが成長して、運用してゆかなければならないのです。

私たち自身が、民主主義の優れた運用者として育ってゆく必要がある。そうでないと世の中はよくならない。だからこそ私たちには、私たちのために住みよく、生き生きとした環境を自ら選択・判断・行動してつくりあげてゆく責務があるのです。そうあってこそ「民主主義」という「制度」が生きるのです。

私たちが私たちを私たちのために「治める力」を育むために今回取り組むプロジェクトは、5・6年生変ポポクラスのみんなが「変ポポ党」を結成し、住み良いTCSをつくるための改革案を提示することです。

「独裁者としてではなく民主的なリーダーとなってみんなを巻き込むんだよ」

という私の言葉を受けて、すぐに、

「わあ、責任思い……」というつぶやきがもれました。オレの話を聞け!決めた通りにしろ!ではなく、逆に、ウケ狙いに走り、みんなが喜ぶけど住みよい環境をつくることにはつながらない提案でもなく、TCSのみんながそれなりの負担や義務を果たしつつ、だからこそよりよいTCSが築けるような「提案」を出し、みんなの共感を得るなければなりません。

テーマ発表のときにTCSの子どもたちに向けてスピーチし、TCS改革提案を訴え、過半数を勝ち取ることが、その提案を「本採用」するかどうかの大事な判断基準の一つとなります。世の大人の多くができていないことだからこそ、将来を担う彼らにぜひとも身につけてほしい。そして変革を起こす主体となって活躍していってほしい。そんな願いを込めて学びの口火は切られました。

RI

TCS2013年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。

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