[1・2年生]
子どもたち一人ひとりの「知識」は、冬休みのホームワークをシェア
してゆくうちに確実に広がってゆきました。
「外来種」が何らかの原因である土地に入り込むことで、その土地の
「生態系」が崩れる……たとえば、井の頭池だと、池に捨てられたバス、
ブルーギル、そしてミシシッピアカミミガメなどが、どんどん繁殖し、
在来種を食い尽くしてしまったり、あるいは、在来種のえさやすみか
を奪ってしまったりして、もともといた種が絶滅の危機にさらされて
しまいます。動物だけでなく、水中の植物にも影響を与え、池の水質
を悪化してしまうことにつながります。こうなると一つの「外来種」
が入ったせいで、多くの影響を与えてしまい、一つの「在来種」どこ
ろか、他の多くの生き物が失われてしまうことにもなりかねません。
そうなってしまうと、結局のところ、悪循環の元となった「外来種」
自身も食べるものを失い、住みにくい環境で暮らさなければならなく
なり、やがて消滅するかもしれません。
こういった負の連鎖こそ「生態系」が壊れてしまうということです。
したがって、こうならないように、生き物どうしの、食べて、食べら
れるバランスがうまくとれて、循環が維持されるように、そして、生
き物の暮らしを脅かさない自然環境を保つようにすることが大事です。
この理屈について、子どもたちに説明を求めると、自分の言葉で語れ
るようになってきていて、着実に理解が深まっていることがわかりま
す。しかし、まだまだ事実を「知った」に過ぎず、所詮「ひとごと」。
「わがこと」になっていません。「調べ学習」を超えて、自ら主体的
に考える「気づき」が、1・2年生レベルにふさわしい形で求められ
ます。
そこで、「わがこと」として考えるよう刺激する問いかけでゆさぶり
ます。
「じゃあ、わたしたちはどうしたらいいの?」
井の頭池に生息する魚のなんと90%以上が、ブルーギルになってしま
った。タマゾン川を読んで、多摩川でも、さまざまな「外来魚」が
すみついてしまい「在来魚」を圧迫している……これらの事実に強い
衝撃を受けたある子は、自分の家の近所にある池の実態について、冬
休み中に調べていました。するとやはり井の頭池と同様の実態である
ことがわかりました。
しかし、このまま手をこまねいて見ているだけでは事態は解決しませ
ん。それはわかっている……でも、じゃあいったいどうしたらよいの
だろう?と問われた子どもたちは、すぐにアイデアが頭に浮かばず、
悩みます。
この「悩む」というプロセスが大事。すぐに「解」を「見つけよう」
とするのではなく、熟考した上で自分なりの「考え」を導き出す体験
が、仮説発見力の基盤を育てます。
「全部つかまえて殺す……」
思いつきのアイデアをつぶやいてみたものの、すぐにあまりよい解決
法でないことに気づきます。しかし、このつぶやきがきっかけとなり、
他の子の思考が刺激されます。やはりブルーギルについて関心のある
子が、
「食べるっていうのはどうかな?」
と発言します。ただ捕まえて殺すのではなく「食べる」。なるほど。
当たり前の解決策にも聞こえるけれど、これだけ多く増えているなら、
私たちのお腹を満たすために有効活用するというのは決して荒唐無稽
なアイデアとは言えません。実際、ある子のホームワークによると、
そもそもブルーギルは、天皇陛下が食用のために繁殖させるという
目的でアメリカからもらったものだということもわかりました。それ
なのに、食用に活かさず、ただ生態系破壊をもたらすだけの結果に
なってしまったことを、天皇陛下ご自身が、遺憾に思われ、公式に
謝罪されたのでした。
「おいしいのかなあ……」
疑問はどんどんわき、ネットで調べてみると、ブルーギルやブラック
バスを料理して食べた人の体験レポートがどんどん出てきます。
「唐揚げにするととってもおいしいんだって!」
「白身で、くせもなくて、いける味なのか」
なるほど、フィレオフィッシュ、フィッシュ&チップスといった感じ
でいけそうか。こうなると、どんどんブルーギルを食べよう!という
アイデアは決しておかしなことではないことが明らかになりました。
外来魚を無責任に捨てるのを禁止することを徹底すると同時に、現状
を「建設的」に打開するには「食べてしまう!」というアイデアもあ
り!
「わがこと」として自分なりの考えを導き出したところに大きな価値
があります。あと残り1週間。発表は、これまで学んだことをポスタ
ーにして行います。「外来種に生態系を破壊させないためにわたした
ちができること」についての自分なりのアイデアをメインメッセージ
として「五・七・五」の俳句・川柳スタイルでまとめます。
さあ、もうひとふんばりです。
RI
※TCS2012年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。