「土星の環の氷の粒を作って水を作ることに成功したのですが、それを
飲んだ乗組員は死んでしまいました」
ある子の書いたショートSFの一部です。科学未来館で見た映画で、土星
の環の中に突入した際に、そこには無数の氷の粒が集まっているという
ことを知った感動を作品としたのです。
「いいねえ、これ、立派なSFだよ!」
ショートSFを書こう!という課題に、大喜びで取り組んだ子どもたちの「最
初」の作品をみんなで読み合い、「よいところ」を見つけました。私の役目
は「文芸評論家」です。「現地」に赴いて知った「事実」を活用し、そこに自分
なりの大胆な「仮説」を加えて作品化する。SFづくりの基本をきちんとふまえ
ているところが素晴らしいとほめました。
「書き出しがうまいよ。これから宇宙に行くわくわく感がある」
「勝手に惑星探検に出かけた人が火星にいるところを地球で観測している
人に見つかって大騒ぎになったという設定がいいね」
「地球にUFOがやってくるという設定はよくありがちだけど、地球に不時着
して困った宇宙人と協力して、修理したUFOで宇宙へ飛び出す!という
ストーリーはいいね」
文章を磨いてゆくには自分の表現のクセを知ることが必要です。そのために
まず、自分の「得意技」を知る!というのが今回の創作の大きな目的でした。
自分の創作のよいところを知り、また、大胆なストーリーを思いつくのが得意
な子もいれば、登場人物どうしの会話を表現するのがうまい子もいる……
というように自分にはない相手の良さを知った子どもたちは、つくば宇宙セン
ターでの宇宙飛行士体験に基づいて、2作目のショートSFを書くことになり
ました。
登場人物:地上の管制官と宇宙ステーションの滞在者(宇宙飛行士も含ま
れる)
どんなことが起こる?:宇宙空間で何らかのトラブルが起こる……
という設定でショートSFを書きます。
まるで試験が開始された時のように、用紙を渡すと黙々と、一心不乱に作品
創りを始めたのには驚きました。書いている途中、横からこっそりのぞいて
みると……
なになに、宇宙ステーションにドッキング?なるほど野口さんのソユーズの
ことをテレビで見たんだな…管制官とのやりとりを細かく書いているぞ…
ほほお、了解しましたとか完了しましたとか体験した時のことを活かしている
な…水道管がこわれて、出てきた水がプカプカ浮かんできれい?無重力状態
を表現したいのか……
「楽書きの時間」を積み重ねてきた「成果」なのか、面白いストーリーを編む
ことはできているなあと感じます。しかし、どの子どもたちの作品にも欠けて
いて、作品としてのパンチ力がないのは、SFの「S」の要素。つまり「サイエ
ンス」の部分です。しかし、今回のテーマ学習のねらいからすればこれでよい
のです。
SFを書くこと「で」宇宙について知るのですから!
冬休みの課題図書は、現代の技術を用いて本気で宇宙移住計画を考え
ている現役宇宙エンジニアが書いた『宇宙暮らしのススメ』です。この本を
「読破」するといろいろと興味深い「サイエンスネタ」が手に入ります。新年を
迎えての学びでのポイントは、子どもたちが、自分が書いている文章に物足り
なさを感じ、そこにサイエンスのテイストを加えると「もっともらしく」なり、面白さ
がUPするということに気づくかどうかです。
星新一、小松左京を超える宇宙SFの「新星」となるべく学びは続きます!
RI
※TCS2009年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。