【探究領域】万象究理
【セントラルアイディア】人体の構造と機能には美がある。
<テーマ学習> 〜レポート
【美とは】
このテーマのタイトルは「美人(Vivid)」。提示すると子ども達からは「やっぱきたか!」「変わらなくてよかった!」「やりたかった!」と明るい反応が返ってきました。骨を作るというイメージが強いようですが、加えて体の仕組みについてもっと深掘りしていくという印象のようです。
6年生もテーマ学習は残すところ3つ。ここで万象究理の領域を思い返してみました。
静かなともだちでは葉っぱを通じて「見る」ことを学びました。
築きに気づくでは建築物を通じて「構造や中身」について視点を広げ、
理して利するでは実際に理論(力学)をまなんでそれを実利(ピタゴラ装置)として活用することに挑戦しました。
玉石混交では石ころからその背景、自然の成り立ちに迫り、
明日天気になーれ!では天気を通じて観測を積み重ねて予測に繋げていくことを学びました。
さて、このテーマでは「美」という観点で切り込んで行きます。これまでの万象究理とは趣が異なり、それぞれの感性を大切にしていくことになります。
まずはそれぞれが思い思いに「美」と感じるものを出していきました。
自分がどんなものに美を感じるのか、改めて考えてみます。
「美って定義できるものじゃないじゃん!」というりなさんの発言に、確かにと納得した子どもたちですが、それぞれが違うからこそ、まずはそれぞれの観点で書き出してみました。
ものじゃなくてもいい?
逆に限定的でもいいんだよね?
といった質問が出てきました。まずは思いつくままに、書いてもらいましたが、こうした質問から他のキッズの視点も広がったようです。
行動であったり、眼に見える形であったり、美は様々な観点で見えてくるようです。
「定義がない」という発言を受けて、あえて一言で言い切ることにも挑戦しました。
それぞれの書き出したことを共有し、美の観点を広げていきました。
Y君はグニャッと曲がった姿勢でいたので言及したところ、「美しい姿勢」で描き始めました。これもまた美になるのでしょう。
それぞれが感じる美を共有していく中で、列車の美を挙げてきたのはやはりD君。全体として美であり、ライトや窓の汚さ、汚れ自体も相まって美であるとのこと。
ピッタリとハマる美しさでテトリスなどもあれば、わびさびといったようにちょっとズレていることが美しいとも思う。その意見を受けて、確かに漫画は手書きなのでちょっと線が曲がっていることがあるけど、それもよかったりすると意見が出てきました。それぞれの感性だからこそ、語り出すと止まりません。
【自分の骨の形】
人体の構造と機能には美がある。というのが今回のセントラルアイディア。それを受けて、まずは自分たちの体がどうなっていると捉えているのか、それぞれの全身写真をもとにして骨格のイメージを描いてみました。
実際に自分の骨を触って確かめていました。
肋骨は名前からして6本?触ってみるともっとありそうです。
それぞれが描いた人骨図はキッズノートにて共有いたします。
実際にどうなっているのだろう、イメージと合っているのか?とモヤモヤが広がってきたところで、人骨模型の実物を見てみます。
実際に見て、触ってみることで発見があります。
手首にはこんなに骨が詰まっているの?
肋骨ってこんなに骨があったんだ、でもこの透明なやつはなに?
軟骨かも、でも軟骨って他にもあったはず。
さっそくジェイクと名付けて可愛がり始める女子たち。
そもそもこの骨模型は男の人なのでしょうか?見た目的に男の人っぽい?でも見た目ってどこでわかるの?
はたして骨盤から男女を見分けることができるのでしょうか。リサーチの楽しみが広がっていきます。
骨って200個くらいあったはず、というMさんの発言を受けて、みんなで骨の本数を数え始めました。
それぞれが担当を分けて数え始めていきましたが、このあたりの連携プレーはさすが6年生。スムーズに数えていきます。
数えてみると、骨の本数は196本?
くっついている骨をどう数えるべきか、頭蓋骨は何個になるのか、不確定な部分はあれど、概ね200個あることがわかりました。
細かい動きをするところほど、骨が密集しているという傾向も見えました。
Y君がよくやるポーズ?を骨模型でも再現。
模型は背骨が固定されているので完全再現とはいきませんが、体の中では骨がこのようになっているようですね。一体どれくらい背骨が曲がっているのでしょう。
【骨のリサーチ】
さて、ここからどんどん骨について理解を深めていきます!といっても、どこからどうリサーチを深めていったものか。
たくさんある骨を無作為にやるのではなく、まずはそれぞれが気になった骨についてリサーチしてみることにします。
骨の面白さを味わう切り口として、背骨について特集したNHKの動画を見てみました。
人類が二足歩行になったことで、他の動物と比べて背骨の役割は大きく変わりました。左右の動きに加え、前後の動き、そして「ねじれ」までを生み出します。
一つ(背骨は多数の骨の集まりですが)の骨に着目していくうえで、FormだけでなくFunctionやその他の観点を加えることで情報はぐっと深まり、面白くなってきます。
動画を見ながら、キッズは姿勢について気になり始めました。いい姿勢はだれ?猫背になってるかも。それぞれの立ち姿を横から撮影してみることに。
まっすぐ立っているようで少し前傾になっていたり、背中がまるまっていたり。ただ、中身としては真っ直ぐではなくS字を描いていることも新しい発見です。そのS字がからだの衝撃を和らげたり、自在に動くためのカギになっているのです。
自分自身の体に興味を持ちながら、リサーチを始めていきます。
【自分自身の体の動きと骨格】
リサーチを開始していく上で、まずは自分自身の体について、その構造(Form)の観点から観察していきます。
体の動く箇所は多くありますが、それぞれがどのように動いて、しかもどこまで動くのかは意外と気にしていないものです。
だからこそ、自分の体をどこまで動かせるのか、どこに骨があるのかを意識しながら触り、動かしてみました。
一番動くところはどこ?肩?
ではその肩はどこまで動くの?どのように動くの?どこが動いているの?
都度言葉にしながら、肩の動きを探っていきます。思ったより手はまっすぐ後ろには回らないもので、背泳ぎの動きを再現してみると途中から腕は横方向にスライドしていくこともわかりました。
これはなぜなのでしょう?骨模型を見たり、触ったりしてみるとどうやら肩甲骨の突起が関係していそう。ぐるぐると腕を回す中にも骨の連動が見えてきます。
肩を回すことから発展して、体をぐるっと一周できるかチャレンジもして見ました。体の硬さの加減はあれど、自分の体がどこまで動くのかをじっくり試して見ます。無理にやりすぎないように、、、
足もよく動きます。偶然朝の会のLOVE語るべぇで4年のIさんが「バレエ」について語ってくれたことから、バレエをやっている人はどれくらい足の骨が動くのだろうという話題に。
実際にやっているSさんから姿勢について聞きつつ、それぞれが足先を伸ばしてみることにもチャレンジしました。この時も、実際に足のどの部分が動いているのかを実感しながら骨の位置関係を読み解いて見ました。
追加リサーチを加えて、実際に骨がどのようになっているのか資料を漁って見ました。足根骨の「距骨」が回転の軸になるような形で、全体的にまっすぐ繋がるように指先まで連動していくようです。
画像をみると本当に指先に体重がかかっているのですが、それを支える趾骨にはどれほどの圧力がかかっているのかと考えると恐ろしくなります。
また、足関連で話題に上がったのは「扁平足」と言う症状について。扁平足を知らない子もいましたが、実際に扁平足だという子の足と見比べると一目瞭然。土踏まずがぺったりと地面についています。(私自身も扁平足なので、いい題材になりました)
扁平足になると、本来土踏まずのところに現れる「アーチ」が潰れてしまうことで、足への衝撃の吸収が悪く、負担が大きくかかってしまうとのこと。骨の位置関係のずれが体への負担を生み出すことも見えてきました。
扁平足を矯正するグッツも多くあるのですが、私自身「効果あり!」と感じたものはなく、いまだに改善されていません、、、
体の部位や気になるポイントから、骨の性質を少しずつ理解していきました。けれど体のパーツは多く、さらにはそれらが複雑に連動していることから、リサーチするほど不思議も出てくるものです。
それぞれのアンテナを整理しながら、どのように深めていくべきかも話し合いました。これまで通りネットや本で調べていくこともできますが、詳しい専門家に聞いてみるのも一つの手になります。
今回はまっつんつながりで、福家さんというスポーツ科学の分野で博士号を取得されている方に質問のメールをおくって回答をいただきました。
どのようにリサーチを進めていくのか、こうしたプランニングは並行して進めているエキシビションとも繋がるところ。実際にそれぞれがメール文を考えてみることで、連絡の仕方も確認しました。
【骨と筋肉の観察:鶏の解剖】
理科の時間を使って、鶏の解剖を行いました。
目的は鶏の体の構造を観察することと、筋肉と骨のつながり、連動を確認すること。鶏と人間、見た目は大きく違いますが、骨や体の機能でみると近いと感じるところもあります。また、骨模型だけでは理解できない骨と筋肉のつながりも、実際に触りながら感じ取ることもできます。
2グループに分かれて、1羽ずつ解剖していきます。
胸部の皮を剥がすと、出てくるのは大きいな大胸筋。その大胸筋を丁寧に剥がしていきます。こちらは鶏ムネ肉として売られている部分になりますね。鶏の大きさに対しても、かなり大きい筋肉ということが一目でわかります。鶏は飛びませんが、鳥類として胸部の筋肉が大きく発達している様子はしっかりと見てとることができます。
腱ではなくても、膜があったり脂肪があったりして、大胸筋はしっかりと胸部にとどめられています。切り口となる筋肉の境目を見定めて、慎重にとり剥がしていきます。
大胸筋を引っ張ることで手羽が手前に動き、小胸筋を引っ張ることで手羽が後ろに動きます。骨と筋肉の連動を確認しながら、解剖を進めていきます。
肋骨を取り外したら、中を見るために股関節を脱臼させます。脱臼という言葉は知っているけれど、どれくらいの衝撃で外れるのでしょうか?力加減を気にしながら、しっかりと脱臼させることができました。
それにより脊柱や骨盤がしっかりと観察できます。
解剖後に出てきた肉は調理して美味しくいただきました。
さて、残った部位を使って追加実験もしてみました。(ここから先は小野の完全な興味による進行です)
まずは鶏の骨をしっかり煮込んで、骨から肉を削ぎ落としていきます
ある程度綺麗になったら、次はポリデントに漬け込んで、細かい肉や汚れを落としつつ、漂白も同時に行なってしまいます。
ちょっと写真が引きで見にくいですが、結構白くなっています。
ついでに他の部位も肉を削ぎ落として、椎間板の動きや肋骨と軟骨のつなぎめなど、人間にも見られる形状を実物を通して触って観察して見ました。
最終的には手羽の骨をボンドで接合して、鶏の腕を再現してみました。
木片に針金で固定したら、かっこいい置物の完成です。指の形は違えど、上腕骨に橈骨と尺骨の構造は一緒というのは地上の生き物の進化の過程を垣間見ることができますね。ここまでくると全身も作りたくなってしまいますね。
【骨格の模造に向けて】
さて、話を人体に向けていきます。上記のとおり鳥類と哺乳類でも類似点が結構多くあった骨格。ここから進化の過程も見えてきますが、人間ならではの特徴もいくつか見えてきます。
そしてここからは調査を踏まえつつ、自分の感じる「美」が詰まった部位を探し、そこの骨を模造しながらFormとFunctionの観点でさらに深ぼっていくことになります。
模造する道具は「石粉粘土」。これの粘土は模型作りによく使われる粘土で、乾燥するとかなり硬くなり、紙やすりなどで整形することが簡単に行えます。
初めて使う粘土なので、どのような特徴があるのかを確かめつつ、基本的な技法を練習して見ました。
作業工程は下記の通り
・粘土を球状にして、しわになっている部分をなめらかに整形する
こちらは粘土ナイフなどを使って、少しずつ粘土を伸ばして整形していきます。水を少量追加して、うまく伸ばしていく、荒い表面をなめらかにしていきました。
・粘土を2つに切って球状にする。それぞれの上部を切断し、切断面を接合して雪だるま状にする
こちらでは粘土の接合を学びました。石粉粘土は結合する力が強いのですが、押し付けるだけでは変形してしまいます。なので切断面を作り、それらを揃えて仮結合し、そこに少し粘土を盛り付けて、馴染ませていきます。これにより切断面が消えて強固な結合になります
・雪だるまにパーツをつけたり形状を変えてなめらかに整形する
ここからはオープンエンドでとにかく切断、結合、整形を繰り返していきました。石粉粘土の特性を少しずつ理解しながら、細かい造形を作る子も出てきていました。
使う材料の特性をうまく掴みながら、骨模型を作っていきます。
【人体の美】
それぞれのキッズがこれまでのリサーチ内容を振り返りつつ、自分の美についての感性をもう一度ふりかえりました。振り返ってきた中で、自分がどのようなところに美を感じるのか、人間の体の美はどこにあるのかが少しずつ見えてきます。
やはり顔面こそ美、と考えて自分が美と感じる顔を並べて分析を始めたり、くびれが美と考えてくびれの分類、角度を分析し始めたり。
各々が美と感じるポイントをさらに分析していきながら、単なる模造ではなく自分の美を表現しながら作り込んでいくことに挑戦していきます。
探していく中で、自分の好きな骨の形が身近にあった!という子もいて、その子の手をじっくり観察&測定。その手の形を再現すべく骨の大きさも概算して製作に取り掛かります。
骨の硬い部分は外側、ということを参考にしつつ、内部に詰めるものを作って概形を作って粘土を盛り付け始めるなど、実際の骨の構造を考えつつ模造にも活かしていく姿勢が見られました。
【骨の模造】
このテーマで骨を作るということは、これまでの先輩たちのプレゼンからもイメージしていたようです。けれどなぜ骨を作るのでしょうか?
必要な情報はインターネットや本でも手に入る?
確かに人間の骨の構造や形については検索すればやまほど出てきますが、骨が組み合わさったり、美しい顔の人の骨などについては自分で作りながら観察していくことでその緻密さや複雑な組み合わさり方を実感することができます。
自分の気になった骨がどんな形状をしているのか、理想の骨の形についてとことん作り込んでいきます。
全てを石粉粘土で作り上げることは乾燥の時間がかかる上、物によってはかなりの重さになってしまいます。そこで、中身を工夫しながら、石粉粘土を盛り込んでいく方法を考えていきました。
実際の骨も、中身は密度が低く、外側が固く丈夫になっています。
探究旅行を挟んで、いざ作るぞ!と思ったらなんとテレラーンに。
それぞれの体調を気にしながらも、持ち帰っていた粘土と素材を使いながらひたすら作業を進めていきます。
手元がなかなか共有できない状況ながらも、それぞれが取り組んでいる内容を適宜共有しながら作っていきました。テレラーンながらも黙々と作業する時間がながれていく様子は、それぞれが集中して取り組んでいるからこその結果でしょう。
テレラーン明けはなんど「テーマ祭り」に突入
時間を得たことにより完成に向けて走りたいところですが、骨を作り上げることが目的ではないことはしっかり確認していきます。
短骨が多い人は小分けにして整理しつつ、それぞれの骨がどのように組み合わさっているのかを観察してまとめていました。
短骨が多いのは、どうしてだろう?短骨が密集している部分を調べると、どうやら手根骨と足根骨の二箇所のようです。それぞれの特徴として、強い衝撃をうまく分散したり、細かな動きを作り出すことに向いている骨であることも見えてきました。
逆に細い動きを必要としない足や腕は長骨でその動きをうまく制御するしくみになっていることも見えてきました。
目指すは自分の「美」を表した骨の姿。
自分がどこに美を感じたのか、見出したのかを整理しながら、プレゼンに向けて話す内容を精査しながら進めていきます。
ここが、という表現を多用するのではなく、自分の言葉や解剖学の表現などを正しく使って他者へ伝えることも意識していきました。
折れてしまった、という声もあれば、ピッタリ重なった!という声もあがる。
骨は折れることもある、けれどもよくよく原因を探ってみると芯となる部分がダンボールであり、濡れてふにゃふにゃになってしまった様子。
柔らかくなりすぎず、なおかつ骨の持つ曲線も描きつつ作っていくために、アルミホイルで厚めの芯を作るなど、バージョンアップを重ねていく姿勢も見られました。
それぞれが作業を進めながら、粘土に対しての感覚も養われており、接合や切断など、時にスキルをうまく使い合わせて進めている様子も見ることができました。
さて、骨ができてきたら、いよいよプレゼンへ向けた語りも磨いていきます。
自分がどこに美を見出したのか。その骨はどんな働きがあり、どんな構造を持っているのか。この3つの観点を大切にしつつ、自分が感じた人体の美について熱く語っていくことがこのテーマのチャレンジとなります。
ーーー
【プレゼンテーション】
プレゼンテーションでは、それぞれが作成した骨を見せながら、自分がどういったところに美を感じたのか、骨の構造と機能から見えてきたことを盛り込みながら1人90秒を目安にして語っていきました。
それぞれの美を追求しながら、その観点を人体の中から見出していった6週間。最後はテーマ祭りともありかなり磨き上げにも力が入っていました。
自分が感じる「美」というアンテナを大切にして、ぜひこれからも自然や身の回りのものを見て、感じて愛でていってほしいと思います。
KO
(参考) TCSテーマ学習について、以下よりご覧ください。
・2023年度 年間プログラム(PDF)運用版
・テーマ学習一覧表(実施内容)