タイトル:日本のなかの世界
探究領域:時空因縁
セントラルアイディア: 私たちは多様性の中で生きている
[5・6年生]
インタビューした内容をまとめて、インタビューさせてもらったお礼として届けます。Keynote のスライドに聞いたことをまとめ、そこから疑問に思ったことをまとめ、さらに調べてみたことも加えます。
ハラルフードのお店をインタビューした子は、店主のバングラデシュ人の方が
「日本に働きに来て大変なことはないね」
淡々と言われたことをスライドにまとめました。
と同時に、日本はこのままでいい、つらいことはない……という言葉に「違和感」を抱きました。
「なんで日本はいいところとしか言わないのかなあ」
不満や嫌なところを率直に言ってもらって改善点を探ろうとしていたので完全に肩すかしです。どうして日本の悪口を言わないのだろう……働くのは大変なはずなのに、全然平気!というのはどうしてなのだろう。
「ぼくたちが子どもだから日本のこと悪く言うとかわいそうだと思って手加減しているのかも」
その子がつぶやきました。
すると、ベトナム人にインタビューした子が突然
「おっちゃん、ベトナムの平均年収って30万円だって」
国際機関のまとめた統計データを調べていた子が言いました。そのデータによると、日本の平均年収は約400万円。なんと約13倍!
近くのコンビニ時給 1000円と書いてありました。1日10時間働いて10000円。30日=1ヶ月働けば年収分を稼げてしまう計算になります。
これなら日本に働きにくるよなあ……みな納得です。アジアの国の中でとにかく豊か。そのうえ、安全で、人はまあまあ優しい。キレイ。病気になりにくい。となれば、自分の国と比べて、日本が「夢の国」に見えても仕方がないなと子どもたちは思い始めました。
「わあこりゃあ差があり過ぎだ……」
ベトナムの平均年収に触発されて、バングラデシュの平均年収を調べようとしても出てきません。しかし、業種別にどれぐらいの賃金をもらっているかをJETRO がまとめたデータを見つけたようです。それによると、工場で働いている人(正社員)の平均月収は、日本が約 30万円なのに対し、バングラデシュはなんと約5000円だったのです。賃金が低いだけでなく、工場の環境も劣悪だということも見えてきました。作動している機械の振動が原因で、工場が壊れ、瓦礫の下敷きになって多数の労働者が亡くなったという記事を見つけたのです。その工場は繊維工場。つまり、洋服を作っている工場でした。安い労働力で作った製品が流れ込んでいるのは……欧米や中国、日本など、先進国です。お金がある国が、お金のない国に仕事を与えるという「名目」で、実は過酷な労働を強いている現実。自分の着ている服もこのような人々の犠牲の上につくられたものなのだと気づきました。
「バングラデシュって洋服だけでなくエビの輸出国なんだって」
ブラックタイガーと呼ばれる海老を海外に輸出することでGDPの5%も稼いでいることも調べました。本来だったら、カワウソ漁と言って、まるで鵜飼のように、カワウソに海老を追い込ませて、人が捕獲するという伝統漁法によって現地の人の口に入るものでした。しかし、その海老を海外資本の入った会社が独占し、先進国の「グルメ」を支える食物として横取りされつつあるのです。
調べていけばいくほど、アジアの国と日本とのいびつな関係が見えてきました。とはいえ、今、食べている天ぷらそばの海老が、着ているTシャツが、そのいびつな関係の「賜物」で、見事に自分たちものそのサイクルの中に組み込まれているのです。
にもかかわらず、現地から飛び出して、日本にたどり着き、今、中野で暮らす人たちは、口々に
「日本はいい国だね」
「今のまま変わる必要はないよ」
と言うのです。
そりゃあそうでしょう。母国の過酷な現実に比べればはるかにハッピー。なにもかも恵まれている。まあ人が多くて電車が混んでいるのを我慢すればいいぐらいかな。そんな感想しか出てこないのは、本心なのです。
脱出した人はいいけど、そうでない人はどうなってるんだろう……「恵まれている」と見られている私たちに、いったいどんなことができるのだろう。一方で、日本にハングリー精神たっぷりで移民してくる人たちは、ぜいたく慣れして、ぐだぐだの日本人よりよほど優れているのではないか。私たちの仕事をどんどん奪っていく存在なのではないか。
どんどん思いがわいてきます。
反面、自分たちのやれることとなると何を言っても「こうしたらいい」「こうなったらいい」という他人事・きれいごとです。はたしてどんな提案ができるのか……深く考えざるを得なくなりました。
RI
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