[3・4・5年生]
大滑車実験も成功し、あとはこの成果をいかに発表するかです。
今回、発表において大事にしたいポイントを、ふりかえりシートの
評価項目に反映しました。それは……
わかりやすく説明すること
そして
熱意を持って伝えるということ
です。
わかりやすく伝えるためには、まず、全体のストーリーがしっかり
していなければならず、そのうえで、説明すべき個々の項目を聞き手
が理解しやすいように簡潔明瞭に伝えることが必要です。
実験のときの様子はビデオを流すことになっている……じゃあ、この
前後にどんな順序でどんな説明を入れたら効果的か考えます。
ビデオを流す前に今回実験で用いた滑車の原理について説明した方が
いいな……それから、実験方法と結果も言った方がいいかな……
こういったことはすぐに見えてきます。
そこで、私が粗く編集したビデオ映像を見せます。すると……
「失敗したところでビデオをストップさせた方がいい」
実験の最初から最後まで流すのではなく、実験がうまくいかなかった
ところでいったんビデオを止めて、どんな仕組みで実験しようとした
のか、さらに、なぜ失敗したと思われるのか要因を説明した方がよい
と言う子が現れました。みんなもこれを聞いて納得。
「じゃあ、実験が成功した!ってビデオを流した後はどうする?」
まず、どうしてうまくいったのかを説明することは明らかだ……
その他にはもうないかと考えていると……
「滑車が回転することってスゴいなということ」
それは面白い!実験をやって気づいたことだね。滑車の原理は使った
けれど、滑車そのものは使わなかった。だからこそ「回転」するって
スゴイって実感できたというわけだ。それはぜひ入れよう!
「本当に滑車を使ったらどうなるか確かめてみたい!」
うん、それもいいネ!さらにやってみたくなったことを伝えるのも
いいだろう。
こうして、どんなミッションを目指し、どんな原理を用い、どんな
実験の手続きで、どんな結果になって、どんなことに気づき、さらに
やってみたくなったかという「発表のストーリー」が固まりました。
この時点で、子どもたちはストーリーの流れを共有しており、どの
パートを発表したいかということも固まっていました。したがって、
発表の順番は、議論するまでもなく自ずと決まってしまいました。
「ぼくは滑車の説明をしたい!」
実験に対してはとても高い意欲を持ちながら、基本的な滑車の原理
を理解するのに苦戦している子がいました。この子が、自ら「原理
の説明をしたい!」と言っている。これはチャンス!発表のために
原理をわかりやすく説明できるようになれば、この子自身の理解に
つながるし、当然ながら、聞き手にとっても簡潔明瞭な説明になって
いるはずで、一石二鳥です。
とはいえ、発表したいというモチベーションだけでは、すぐにうまく
説明できません。
「ロープを指差しながらどれだけ力が分散されているか考えれば
わかりやすいんじゃないかな?」
すかさず他の子からの助け舟が出ます。アドバイスを受け入れつつ、
どんどん説明の仕方が洗練してゆきます。わかりやすい説明のために
必死になって繰り返し練習してくれるおかげで、説明を聞いている
他の子たちも、決して他人事ではなく、固唾を飲んで発表の様子を
見つめざるを得ません。この結果、聞いている他の子の理解も知らず
知らず深まってゆきます。
「やったー、できた!」
どんな言い方がわかりやすいか、そのときにどんな図表を用いたら
よいか、何回も繰り返し試行錯誤することで、ついにうまく説明でき
るようになりました。よくガンバッタ!
「内容」が固まってくれば、残るは“熱く!面白く!プレゼンする!”
こと。
今回、「物理的」な“チカラ”を追究してゆくことで、「精神的」な
“チカラ”の重要性にも気づいたという部分を発表の最後に盛り込むと
「ユーモア」が加わり、さらに発表を印象づけるだろうと考えついた
子どもたち。「なにくそ根性」を刺激する「挑発的言葉」が火事場の
ばか力を発揮するうえでなくてはならないと述べて、発表を閉じよう
と決めました。しかし、せっかくの決めゼリフでありながら、恥ずかし
がって、はじけきれず、パンチの利いた発表になりません。
「まだダメだな!」
「う〜ん、しょぼいな」
そういう返しをせざるを得ない状況です。そこで、「挑発的言葉」を
用いることにしました。
「なんだ、結局、無理なんじゃない。口だけだね。もうあきらめたら」
言われた子の顔がはっと変わります。思わず涙がこぼれるものの、
ここで折れたら、発表内容と自分の行動が矛盾してしまうとよ〜く
認識しているようです。数分の沈黙の後……
「もう一度、やらせて!」
さあ、これがラストチャンス!ということで……発表を始めると……
おーっ、何かが違う。迫力があるじゃないか!壁を乗り越えたな!
これぞ火事場のバカ力じゃないか。
「全然。違うじゃん!」
見ている子からも拍手が生まれます。さあ、これで発表は固まり、
あとはテーマ発表に臨むのみ。思いっきりはじけ、楽しみましょう。
RI
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