[5・6年生]
先週ようやくストーリーの大まかな骨が固まりました。SF的要素としては、
重力による空間のゆがみが時間の進みを遅くするという「一般相対性理論」
の発想を基軸としたものになりました。こう書くと、そんな難しいことを教えた
の?とか、なんで子どもは知っているの?とか考える人もいるかもしれま
せんが、そんな大げさなことではありません。
われわれの世代なら「ウルトラセブン」、今の子どもなら「ドラえもん」と
いった子どもに大人気の作品の中で、時空のゆがみの引き起こす不思議
な現象は取り上げられています。したがって、この手の話は、子どもたち
はどこかで聞いたことがある可能性が高いのです。むしろSFにありがちな
要素とも言えるわけで、子どもたちに求められるのは、漫画で見聞きした
ことの「真似」だけに終わらず、どうオリジナルのストーリーへと仕立てて
ゆくかです。
時空のゆがみによる「浦島太郎効果」で現在から未来へは行けるかも
しれない。しかし、その逆の未来から現在へとタイムスリップしてきた男を
からませたい……すると、なぜわざわざ未来から現在へやって来たのか?
という謎が生まれる……それは、地球の危機を警告するため……その危機
とは……太陽のブラックホール化に関係がある……こうして、ありがちな発想
を出発点にして面白いストーリーが育ってゆきました。
なかなか面白いストーリーの流れが生まれ、ここまでくればあとは「肉づけ」
するだけ。ディテールをふくらませてゆけばよいのでサクサク進むのでは!
と予想しましたが、それは甘い幻想でした。
「庭にドサッと音を立てて倒れたんだよ」
「砂浜に流れ着いた方が絵になるよ」
「でも、主人公がどうやって家にひっぱりこむの。絶対砂浜だとおかしいよ!」
「いやあ、でも未来から突然、人の家の庭に出るなんてなんか違うんだよな」
“総論賛成各論反対”は世の常です。未来から来た男が時空移動の際に
記憶喪失になり、気絶して倒れているところを主人公が発見するというところ
までは固まったものの、未来から来た男の登場の仕方のディテールを決める
段になると、それぞれの「こだわり」が出て、なかなか譲れなくなってしまい
ました。ただ、大人と違ってTCSの子どもたちの偉いところは、誰かに丸投げ
したり、安易に妥協したりせず、たとえ「激論」になろうとも話して、話して、
話しつくそうとする姿勢があることです。この粘り強さとパワーこそ小学校時代
から培っていくべきことだと心から思います。
「ロケットが爆発したとき宇宙は真空だからあんまり燃えないんじゃない?」
「でも、きっと大きな穴は開くよ」
「じゃあ、その穴から機内の物がどんどん宇宙空間に出ていくと思うんだけど」
「そうだよね。あまり燃えなければそのまま出てゆくかもね。」
「ぷかぷか浮きながらどこかへ飛んでいく感じだろうな」
ディテールにこだわることで、このような豊かなイメージへと発展してゆきます。
したがって、悪いことだとは一概には言えないところが悩ましいのです。
「収斂」のための「よどみ」とは違って、活発にやりとりがなされますが、瑣末な
ところにこだわり過ぎて、せっかくできたストーリーをうまく肉づけできません。
(なんでここで停滞するんだ……こうすればいいんだよ!)
と言いたくなる衝動を必死になってこらえました。自分のアイデアを押しつけ、
誘導して完成させたとしても、子どもたちの自律的な学びを阻み、創造の苦しみ
に耐えつつ、なんとか考えをまとめあげる力は育ちません。
ここはひたすら我慢……刻々とデッドラインは迫る……本当に間に合うのか……
とはいえ、できることは、
「さあ、もう時間がないぞ。必死になって脳みそを絞れ!ただ対立しているだけ
でなく、うまくアイデアをまとめろ!」
と渇を入れることのみです。
なんとか脚本の9割はまとまりましたが、肝心のラストを考えつかないまま
5週目が終わりました。当然、まだ紙芝居の絵にはまったく取りかかっていま
せん。筋書きができたとしても、絵は間に合うのか?泣いても笑ってもあと残り
1週間となってしまいました。
RI
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