「進化とはどういうこと?」と子どもたちに尋ねると
「環境に合わせて変化すること」
という答えがすぐに返ってきました。では、環境に合う変化はどのように
生じるのか……これまで学んできたことをふりかえりながら考えてみました。
ここ2週間、じっくり追究してきたのは、わざわざ「多様な個体」が生じる
ように遺伝は仕組まれているということでした。ということは……「多様な
個体」が生じることと「環境」との間に「進化」を考える上でのヒントがある
のでは?そこで、子どもたちにアフリカ出身の黒人に多く見られる「鎌状
赤血球貧血」という遺伝病の事例を紹介しました。この病気は、赤血球が
ドーナツ状ではなく、細長い鎌のような形になってしまい、酸素を十分に
運搬することができず、成人になる前に死亡してしまうこともある重い貧血
です。これはたまたまDNAのコピーミスで生じた「突然変異」なのですが
この病気がなぜアフリカ人に生じ、さらに受け継がれているかを探ってゆくと
「環境」への適応という側面が見えてきます。
「病気のおかげで生きてゆけるんだね……」
アフリカの風土病であるマラリアは、赤血球を食い荒らすマラリヤ原虫に
よって生じます。しかし、鎌状になった赤血球ではマラリア原虫は増殖
できません。まさに「病気」が「環境への適応」、つまり生き残る道だった
のです。
「どうして鎌状の赤血球が生まれたんだろう?」
と子どもたちに問いかけると
「赤血球の形を変えれば生き残れると思ったから」
という素朴な答えが返ってきます。
「だってキリンの首が長くなったのは、長くなった方が都合がよかったから
でしょう」
子どもたちの考えは、「目的」が生じて「突然変化」が起き、徐々に
「進化」していったという発想です。
そこで
「そう、そこが問題なんだよ!じゃあさ長くなろうと思えば長くなるの?」
と切り返すと
「遺伝を自分で変えることは難しいよ」
「自分の顔は変えられない」
すぐに「意志」で「遺伝情報」を変化させるのは無理ではないかと思い当
たります。すると
「突然変異は環境の影響受けるんでしょ。紫外線とか放射能とか浴びたら
DNAが壊れるって調べたじゃん」
環境に合わせるように突然変異は起こるのだ!という反論が現れ、再び
「目的をもって進化は生じている」というアイデアに子どもたちはなびきます。
「なるほど、面白くなってきたね。でもさ、先週までみんなでやってきたこと
を思い起こしてごらんよ」
これまでさんざん考えてきたことは、「突然変異」は「偶然」起こり、「多様な
バラエティ」を作り出す仕組みが遺伝に含まれているということでした。
つまり、結果的に「環境」に合わせて「進化」したように見えても、「目的」に
合わせて「進化」したわけではない!ということなのです。この仕組みの
最大のメリットは、突然やってくる予想不可能な環境変化に対応できる
「個体」が、数多くある「バラエティ」の中に存在するということです。
今の世では単なる「病気」でも、いざという環境変化の際には「救世主」にな
るかもしれない。鎌状赤血球貧血はまさにその一例でしょう。「多様性」は
「可能性」の源であり、どんな人の「遺伝子」もかけがえのないものだという
ことをはたして実感できるか……いよいよ最終週に突入です。
RI