特定非営利活動法人 東京コミュニティスクール

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東京コミュニティスクール

30年後の自分になりきる

[5・6年生]

家の人にもなるべく見せず、自分ひとりであれこれじっくり考える
のを楽しむようにということでホームワークにした「人生楽ありゃ
苦もあるさ年表」づくり。

「ねえ、みんなの年表を発表するんでしょう?」

授業前からいつもよりそわそわした様子の子どもたち。なんとなく
はずかしそうでもあり、反面、早く発表したいようでもあり、いず
れにせよ楽しんで考えぬいた末に、納得できるものができたという
手応えを感じているのが表情にありありと出ていた。

早速、ひとりずつどんな年表になったのか語ってもらうと、それぞ
れの個性がしっかり出ているとっても面白いものができあがってい
た。

「高校の終わりになってやっと勉強しなきゃと目覚め、猛勉強し始
めた」
「高校のときにネットを使ったビジネスを始める」
「大学時代にアメリカに留学し、そのときに環境を守る活動をした
ことがテレビ局への入社の際に役立った」
「小動物を救う団体を立ち上げたものの資金集めに苦労する」
「自分が提案した番組企画が通らずめぐまれない時代を過ごす」
「大学院では、交通と都市計画と自然保護とを一体化して考える
○○研究所に進学する」
「40歳を過ぎて映画監督として生きてゆくことを決意し、TCSのこと
を映画化し話題を呼ぶ」
「自然と住居とオフィスと店とをうまくまぜたまちづくりをプラン
するようになる」
「大学時代に出会ったエジプト人と結婚する」
「仕事が多忙で子育てに悩む」

誰ひとりとして、世間一般において「ふつう」と考えられている職
業に進むものがいなかったのは、TCSらしさなのだろうか。しかし、
それ以上に驚かされたのは、将来なりたい職業を口にするだけで終
わらないところだ。小学生なら、野球選手、サラリーマン、ケーキ
屋さん、研究者と職業名を挙げ、どうしてなりたいか、どんなこと
をしたいかを言えればそれで御の字であろう。それなのにこの子ら
は、「自分がなりたいもの」になるまでの過程、そしてなってから
の過程においてどんな紆余曲折があるかも含めて、具体的かつ詳細
に考えてきていた。どんな努力を強いられ、どんな出会いがあり、
さらに、うまくゆくときもあれば、失敗するときもありながら、な
んとか目指すものを追い続けるというストーリーが見事に年表に表
現されていたのである。

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「環境っていうけどどんなことに関心を持っているの?」
「アイデアを紹介するっていったいどんなことなんだろう?」
「単に借金するんじゃなくてみんなから出資してもらってお金を集
めるやり方かもね」

お互いの発表を聞きながら、建設的なつっこみを入れあうことでイ
メージを明確にし、年表のリアリティがさらに増した。こうして、
年表をじっくり発表し終えた後、30年後の自分として演じることに
ほとんど抵抗はなくなっていた。それどころか、もう30年後の自分
に「なりきって」いた。

突然、師の訃報に接して集まったら、どんな行動をとるだろう……

悲しみはありながら、今、抱えている仕事のこともあり、きっと通
夜の会場でちょっと時間ができたら、そこで仕事を始めるだろう。
久しぶりに会ったら、そこでお互いの近況を報告しあうだろう。
始めはなんとなくぎこちなく、固いムードも、だんだん柔らかくな
っていき、師の思い出とともにTCS時代の思い出話に花が咲くだろう。
それは「悲しい」というより「懐かさ」に満ちたものだろう。ひと
しきりそんな話が済むと、気の許せる仲間との語らいゆえに、今、
自分が抱えている悩みを語ることもでてくるだろう。そうこうして
いるうちに、式が始まる……

そんな流れが見えた途端、彼らは「なりきっている」がゆえに自然
に内から発せられる「声」としてセリフが口をついて出てきた。見
事な即興劇が始まった。

最初のセッションは、とにかくダラダラとしたやりとりが続いた。
それだけで1時間以上かかった。しかし、それは決して無駄なプロ
セスではなく、30年後の自分自身の特徴をさらにしっかりとつかみ、
相手とどのような語り合いが展開するのかより深く理解することに
つながった。

こうして、2回、3回とセッションを積み重ねてゆくうちに、どん
どんとお互いの「らしさ」が明確になってゆき、必要なやりとりだ
けがすくいとられて、より自然で、洗練された「劇」となっていっ
た。

もはや彼らが小学生には見えなくなっていた。未来の自分を生きて
いる立派な「社会人」となっている。「通夜劇」の見通しはつき、
「個の尊厳」もいよいよ大詰めを迎えた。

RI

TCS2012年度探究テーマ一覧は、こちらよりご覧ください。

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