旧来型の経済社会では、目に見える、手で触ることのできる「タンジブル」な活動を通じて製品やサービスを提供する「工業化社会」のルールを忠実に実践すれば国は豊かになりました。しかし、グローバル化とデジタル化が進んだ現代においては、金融業界、IT産業、ライフ・サイエンス分野などを例に挙げるまでもなく、目に見えず、手で触ることのできない「インタンジブル」な活動が主流になります。
そういった世界を動かしていくには、めまぐるしい変化の中で学び続けながら新たな価値を創造していく優れた個人の力が重要になります。また、国民総中流社会から格差社会への変化が見え隠れする昨今においてこそ、一人ひとりの持っている価値観や能力の違いを認め、多様性を受容する社会への変革を果たしていかなければ、国民一人ひとりが心豊かな生活を送ることさえも困難になります。
しかし、そういった一人ひとりの人材・市民を育てていく社会的基盤である「教育」は、旧来型の社会の常識に基づいた既知の知識の伝達から抜けきれないために、学習者が主体となって未知の問題を解決する力を養う教育や多様性を認める価値観への転換が遅れているのが日本の現状です。
このような状況下で、私たちは、一人ひとりの持つ「違い」を大切にしながら「学び続ける力」を育む教育の実践を通じて、子どもたちとその教育に関わる親や公教育に携わる教育関係者にとって有益な情報提供・支援を行い、子どもと大人が共に一人の主体的な市民として豊かな社会生活を創り出していく活力のある社会の実現に寄与していきたいと考えています。
そのために、東京コミュニティスクールは2004年8月に任意団体として小学生を対象とした全日制スクールの運営を開始して以来、「思考と行動のつながり」「人と人とのつながり」「生活や社会とのつながり」をベースにして学ぶ教育プログラムの研究開発・実践を行ってきました。
ちなみに、学校教育法第一条に該当しない私たちのようなオルタナティブスクールは、日本においてはフリースクールと呼ばれることが多いのですが、私たちは自分たちの理想に基づいた「特別な」学校を作り上げることよりも、社会の人々とのつながりや公教育をはじめとする他の学校の子どもたちや保護者、学校関係者とのつながりを通じて、日本全体の教育のレベルアップに貢献するという考え方をより明確に表すために、「学びを通じた人と人とのつながりの場」=「コミュニティスクール」という名称を採用しました。
ですから、スクールの中での教育を充実させていくことのみならず、これまでもスクール外部の方々を対象に、教育セミナーや教育実践発表会の開催を行ってきたほか、青山学院大学教育学部での講演、新宿区立富久小学校との交流プログラムの実践などを通じて、多くの方のご理解をいただいてきました。
今後も、現在の活動を継続・発展させていく中で、子どもたちとその教育に関わる親、教育関係者、学生、地域住民とともに「学びのコミュニティ」を作りながら、これからの日本の教育における一つの選択肢を具体的な形で示していきたいと考えています。
また、オルタナティブスクールを選択して通う子どもたちは、現在では、多くの場合は学籍を置く公立校の理解と協力により、出席の公簿記録、卒業の認定、通学定期の購入などができるようになりましたが、まだ一部地域・学校では十分な理解をいただけない現状があります。さらに私学を含めた公教育と比した場合、現状では公的な支援が全くないために保護者への経済的負担が大きく、それによって学びの環境の選択の幅が狭くなっている現状についても私たちは問題意識を持っています。
子どもを持つ親が主体的に教育に向き合う際に出てくる、そういった諸問題を解決するために、私たちは、学びの選択肢の多様化とその選択の自由に関する社会的認知や、バウチャー制度の導入などを含む経済的支援を獲得していくためのさまざまな働きかけについても、積極的に行っていきます。
以上の目的は、NPOを組織し活動する不特定多数の市民のみならず、教育に関わる親、教育関係者、学生、地域住民など不特定多数の市民や、そのような環境で学び成長していく不特定多数の子供たちに対する利益に寄与するものです。
特定非営利活動法人東京コミュニティスクールは、この目的実現のため、既に1年半余の活動実績を有しておりますが、一スクールとしての拡大や充実といった狭小な利益に甘んじることなく、日本の教育改革に貢献し活力のある社会を実現するという姿勢を鮮明にし、社会に対しての説明責任と透明性をより充実させるためにNPOとしての法人格を取得するに至りました。